生きている意味

生きている意味ってなんだろう

生きている意味ってなんだろう。

最近生きている意味を欲しがっている。

自分には見つけられないから、誰かに。

家族に友人に恋人に。

そんな大切な誰かもいないから、まだ意味を見つけられていない。

目が覚めて、ベットから立ち上がりカーテンを開く。

明けようとする夜に、僅かに空が白む。

3時間も眠れなくなってから、もう１ヶ月程経とうとしている。

つまり、夏休みも残り１ヶ月になる。

何もしなくなってから１ヶ月になる。

何もしないと言っても、何かはしている。

動画を見たり、映画を見たり、本を読んだり、ぼーっとしたり、ごろごろしたり。

今の体に睡眠はいらないみたいだけど、お腹は減るし喉も乾く。

だから、買い出しには定期的に出ている。

何となく動いてるけど、『最近、何してるの？』って聞かれたら何もしてないって答える。

何かはしてるかもしれないけど、何も成していないから。

動画を作っていたら？もちろん、動画を作っているって答える。

本を書いていたら？もちろん、本を書いているって答える。

きっと誰かに誇れる自分でありたいと思ってしまっている。

何も出来ないし、何もやらないけど、まだ期待だけはしている。

本当になんで生きてるんだろう。

そう思っても、朝食のパンは焼くし、コップにアイスコーヒーも注ぐ。

起きて1口目のパンとコーヒーは特別な味はしないけど、確実に生きるための方法を選んでいる。

今より少し前、大学に入学してすぐのある日。

起きてから寝るまで、家から1歩も出ず、誰とも連絡を取らない日があった。

元々、進学してから連絡を取るような相手は誰もいなかったが、講義や通学時に人には会っていた。

こんな1日は多くの人が経験しているだろう。

でも、誰にも認識されなかった1日を終えたその日。

もう生きてても死んでても変わらないな。

そう感じた。

何も生きているだけで利益をもたらす人になりたい訳じゃない。

生きているだけで感謝されたいとか、そんな大それた事は願っていない。

ただ生きていると感じたかった。

SNSでもしてれば違ったのかもしれない。

画面の向こうの当の本人の事は別にして、生きている事は確認してもらえる。

でもこれは理想の話で、インターネットに逃げても誰にも見て貰えない事が怖くて、1歩が踏み出せなかった。

何もせず宙を見つめて過ごした5時間には、当然価値はなくて、すり減らした人生の時間に後悔も覚えられなくなった。

趣味がなかった。

人にも、物にも、少しの未来さえ楽しみにさせてくれる何かを持てなかった。

これが趣味です。これが好きなものです。と誰かに胸を張れる物がなかった。

架空の誰かに囚われ過ぎていた。

見て貰えると。

気にかけて貰えると。

他人への期待を捨てられなかった。

実の親すら、家を出てから連絡を取っていないのに。

深夜0時を少し回った頃。

5日ぶりに外へ出る。

深く息を吸うと、肺が湿度の高い空気で満たされる。

不快だ。

夜道に響く足音が、小さく軽い人間性とは不釣り合いな程大きい。

きっと怪談話に聞く不気味な足音は、自分見たいな人間から生まれたのだろう。

見向きもされない人間。

どこにも名前の残らない人間。

どれだけ自分に関心がなくても、自分の名前を忘れることはないけど、名前がなくても何も支障がないかもしれない。

実際のところ、この国に産まれた以上色々な書類に名前が残っているだろうし、大学にも在籍している。

だから、影響が全くない訳では無いかもしれないが、影響が出るのは数年先にはなりそうだ。

今日生きている事を知っている人は誰もいない。

生きていない事と同じだ。

目的地までの15分程の道のりも、この時間では人とは会わない。

死んでいる事と同じだ。

目的地は名所らしく、岩だ、滝だ、川だと何かと良い条件が揃ってるそうだ。

生きている意味ってなんだろう。

この問の答えは出なかった。

生きている意味も、死なない意味も分からなかった。

呼吸を続けて重ねた1分1秒も、必要の無い時間だった。

消極的に、否定的に、悲観的に考え続ける。

その思考で一杯にした頭が、自分を失わせてくれるように。

何度も何度も、同じ事を同じように、もっともっと辛く、苦しくなるように。

そうやってどれだけ言葉を重ねても、本質は変わってくれない。

誰かに見て欲しかった。

誰かに気づいて欲しかった。

誰かに生きる理由になって欲しかった。

･･････誰かの生きる理由になりたかった。

無くならなかった、重い自分と他人への期待。

重い心の収まった重い体が、感じた浮遊感のおかげで、ようやく小さく軽い人間性と釣り合った。