【この神、人任せにつき】4
翌日。
なんとか夜をやり過ごした俺たちは、再びギルドに来ていた。
「はい、確かに確認いたしました。職業はどういたしますか?」
ルミアをリンチしていた小動物のようなモンスター数匹と、ゾンビの討伐によりレベルが7になったおかげで、冒険者登録に必要なステータスに届いた俺は、早速登録手続きに来ていた。
「どうしようかなあ。魔法もいいけど、剣とか槍もかっこいいよなあ! ルーンナイトとかがいいか? いや、勇者なんだし両手剣で戦うセイバーも捨てがたい……」
俺がどうしようかと悩んでいると、ルミアが受付のお兄さんに話しかける。
「彼の職業はウィザードでお願いします!」
「ちょっおい! 勝手に決めんなよ!」
いきなり入ってきて勝手に職業を決めようとするルミアを止める。
「いやだって、レイジくんステータス低いんだから。魔素量以外に必要なステータスがほぼない魔法職にしないと。それに、せっかくあげたそのネックレスが意味なくなっちゃうじゃないか」
ルミアのその提案に、受付のお兄さんが申し訳なさそうな顔をしながら、俺のステータスが書かれた紙を見せてくる。
「あの、すみません。レイジ様の魔素量なのですが、ほぼ無いに等しいと言うか……ですので、魔法職はあまりお勧めは……」
お兄さんのその言葉に、ルミアはニコッと微笑みかける。
「そのことに関しては大丈夫です。あたしがいるので」
お兄さんは不思議そうな顔を浮かべながら、俺に確認の視線を送ってくる。
まあ確かに俺はステータスが低い。
筋力や体力を多く要求される職業は無理なのだろう。
ルミアが言った「あたしがいるので」と言うのは多分、腕に巻いたこのネックレスのことだろう。
俺は一つため息をつくと。
「はい。ウィザードで、お願いします」
職業の登録を済ませてきたらしいお兄さんが、俺に冒険者カードを渡してくれた。
「レイジ様、本日は当ギルドでの冒険者登録、誠にありがとうございました。レイジ様の今後のご活躍、当ギルド職員一同、心よりお祈り申し上げます」
受け取った冒険者カードをしげしげと眺めていると、ルミアが横からのぞいてくる。
「いやあ、まさかこんな最初から躓くとは思わなかったけど、これでキミも今日から立派な冒険者だ! 精進したまえ!」
ここまで神らさしさなど一切なく、それどころかヘマしかしていないくせに、上から目線なのが若干鼻につくが、まあ今は許そう。
なんと言っても今の俺はウィザード。 こいつが言う通り立派な冒険者なのだ。
「よし、じゃあ早速魔法を教えてくれ。魔法を覚えたらクエストを受けてレベル上げだ!」
「そのことなんだけど、キミに魔法を教えてくれる師匠を見つけなきゃいけないことに気づいたよ」
師匠……?
「ルミアが教えてくれるんじゃないのか?」
昨日は確か、そういう話だったからサバイバルナイフ一本でレベル上げに出たのだ。
「魔法を覚えるには段階があってね。まず見る。覚えたい魔法をまずしっかり見て、今度はその魔法の構造を理解する。この世界の人たちはそれを学校や実戦で覚えるんだ。キミの場合は、あたしの魔力を使うから、多分見るだけでなんとなく使えるはずなんだけど……」
ほう。普通はポンポン覚えられるものではないのか。
にしてもこのネックレス、神の片割れだけあって相当なチートアイテムなのだろうか。
「あたしはここで魔法を使うことができないから、キミに魔法を見せることができないんだよね」
そういえば確かに俺を召喚した時にそんなことを話していた。
俺を召喚したのは、下界で直接力が使えないからとかなんとか。
「ん? でも昨日は「キミに魔法を教えるよ!」とか言ってなかったか? あれはどういう──」
「忘てた」
「……は?」
「てへ」
あーこいつ‼︎
「自分で言ったこと忘れんなよ!」
「だって! 冒険ってなんかワクワクするじゃん! テンション上がって忘れるくらい誰でもあるじゃん! ちょっと忘れてたくらいでそんな責めないでよ! それにレベルも上がって冒険者にもなれたんだし!」
「下手したら死んでたんだぞ……俺が念の為ナイフを借りてたから良かったものの……」
なんてことだ。
もしナイフがなかったらと思うとゾッとする。
ゾンビに喰われて無惨な姿になった自分を想像し背筋を凍らせる俺を、反論できずに頬を膨らませムッと見つめてくるルミア。
クソッ。いちいち顔が可愛いのが、更にむかつく。
「と、とにかく! キミに魔法を教えてくれる人を見つけなきゃ始まらないよ! ほら、さっさと探しに行くよ!」
まるで俺がぐずってるみたいに言いやがって……。
しかし、こいつの言う通りここで言い合っていても仕方ない。
とりあえず、魔法職っぽい人に片っ端から声をかけてみるか?
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられる。
「すみません。もしかして、魔法使いをお探しですかな?」
妙に落ち着く優しい声色。
振り向くとそこには、茶色のローブに身を包む、糸目で高身長の、いかにも物語中盤で裏切りそうな男が立っていた。
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