【この神、人任せにつき】3
「……なあ、ほんとに神様なんだよな?」
「…………はい……その、ごめんなさい……」
日が落ち切って、真っ暗闇になった平原の中。
俺たちは寒空の下、焚き火すら焚けず座り込んでいた。
──遡ること数時間前──
レベルを上げ、冒険者登録に必要なステータスを獲得するため、俺とルミアは街から出てモンスターの生息する平原まで来ていた。
「あああああああああああ‼︎ いやああああああああああああああ‼︎」
地面から突如姿を現した、巨大なミミズ型モンスターに驚いたルミアが、とてつもないスピードで逃げ出した。
「ちょっと! 待ってください! ちょっまっ、待って! マジで待って! いや待てってほんとに! おい待て! おい! まっ、待てええええええええ!」
いつの間にか視界に映るルミアはゴマ粒ほどの小ささになっていた。
「くそっ! なにがこの世界の神様だよ! 召喚した勇者を見捨てるなあああ!」
必死に追いつこうと全速で走るが、ステータスの低さ故か距離は離れるばかりだ。
あのモンスターは多分、ギルドに来ていた冒険者らしき人たちが話していた、ソルワームという低級モンスターだろう。
超巨大ミミズといった姿形で、その体長は5mくらいありそうだ。顔に目や鼻はなく口だけで、地面から出てうねりながら追ってくる姿は恐怖そのものだ。
トラウマになりそう。
移動速度はそこまで速くなく、すでに十分距離を離せた。
まだ追ってきてはいるが、これなら問題なく撒けそうだ。
「はあ、はあ、あの神どこ行きやがった……」
俺はルミアを追って森の中に入っていた。
全速で走ったことにより、すでに体力の限界が近い。
「きゃああああああああああああああああああ!」
突如、森の中に悲鳴が響き渡る。
「この声……あいつか!」
声の主を確信した俺は、声のした方に走り出した。
「やあっやめてっ、ちょっやめてってば! やっ、ちょっと! どこ触ってるの⁉︎ ちょっほんとにっ! やめてえ!」
そこには、この世界の神らしい少女が、触手のような枝に巻きつかれて悶えていた。
俺の視線に気付いたのか、巻き付かれたままのルミアが助けを求める。
「あっキミ! いいところに来てくれたね! ちょっとこの枝を剥がして……ねえ、聞いてる? おーいキミだよ? ねえ! レイジくん⁉︎ キミだって! 見てないで助けてよレイジくん!」
美少女がモンスターに襲われて助けを求めているのだ。助けないわけがないさ。
しかし、モンスターを前に俺を置いて逃げ出した腹いせもしてやりたい。
それに俺はステータスが低いのだ。下手に手を出せば返り討ちに遭いかねない。
ここは慎重に様子見を……
「ちょっとほんとに助けて! 段々締め付けが強くなてきてる! 死んじゃう! 死んじゃううう!」
ギルドで借りてきたサバイバル用ナイフで枝を切り裂き、なんとかルミアを助け出した。
「うっうっ、助けてくれてありがとね、レイジくん……」
泣きながら体に巻き付いていた枝を払うルミア。
こいつ、本当に神なのだろうか。逃げ出したことといい、木に捕まっていたことといい、だんだん怪しくなってきた。
「確か、自分の世界の生物より弱いとか洒落になんない。みたいなこと言ってなかったか? それとも俺の聞き間違えか?」
「だって、だってえ、いつも天界で見てたから……目の前で見たら思ったより大きくて……怖くて……うう、ぐすっ」
魔王がめちゃくちゃ恐ろしい見た目じゃないことを祈ろう…………。
「で? この木みたいなのに捕まってたのは?」
確かにソルワームは怖かった。正直トラウマだ。
だが、このモンスターは木だ。枝が触手のようにうねっていた以外は、ただの木だ。
「……綺麗なりんごが生ってて、頂こうとしたら……急に枝が……」
動物相手の罠レベルだろそれは。神がそんなのに引っかかってどうすんだ……。
「はあ、とりあえずこの森から出よう。なんだか獣の視線を感じるし……確かこの森はレベルが高い魔獣が住むヴォワザンの森だろ? ギルドの掲示板に、迂闊に入るなって注意書きがあったし」
低級モンスターのミミズでさえあんな感じだ。魔獣なんて出てきたら100%太刀打ちできない。
それに日も落ちてきた。こんな森で夜になれば遭難待ったなしだ。
「そうだね……本当は今日中にキミに魔法を覚えて欲しかったんだけど……しょうがないね。今日は帰ろう。ヴィオネスタに戻る頃にはもう夜だろうしね」
そうして俺たちは森を出て帰路に着いたのだが──。
──現在──
「帰り道でまたソルワームから逃げ出すし、逃げた先で小動物みたいなモンスターにリンチされてるし。しかも夜は身分証がないと街に入れないって門前払い、野営道具なんてもってないから焚き火も焚けないし……散々だ……」
そう、行きに出会したソルワームは、俺たちをずっと追っていたのだ。
あのミミズ、しつこすぎる。あんな見た目で、あのうねるような動き。さらにありえないくらいしつこいとか、もうホラーじゃん。
「その……お詫びも込めて、よかったらこれ、食べる?」
そう言いながらルミアが差し出してきたのは、りんごだった。
「もしかしてそれ、さっきの……?」
ルミアが木のモンスターに捕まったのは、りんごを取ろうとしたのが原因だった。
「そ! ポケットに入れたままだったんだ!」
無邪気に言うルミアを見て、少し溜め息が出る。
「他に食べるものもないし、半分にして食べよう。ルミアも食べたいだろ?」
そんな俺の問いに、ルミアはりんごをジッと見た後、首を振る。
「ううん、大丈夫! 神様は別に食べなくても生きていけるから」
と言いながらぐうううと腹を鳴らす自称神。
「めっちゃお腹なってるけど」
顔を赤くして恥ずかしそうにお腹を抱えるルミアに、ナイフで半分にしたりんごを差し出す。
「なんかごめんね……神様なのにこんなで……」
「大丈夫。もう神様だと思ってないから」
そう言う俺を見て、ルミアは目を見開いて言葉を失う。
神様だと信じられていないことがそんなにショックだったのだろうか。
俺がそんなことを考えていると、ルミアがゆっくりと俺を指差す。
いや、正確には俺の後ろを……。
「「ぎゃあああああああああああ‼︎」」
ゆっくり後ろを振り向くと、そこには腐って肉が剥がれ落ちたゾンビの顔があった。
「なんだあれ⁉︎ ゾンビだよな、怖すぎだろ‼︎」
またしてもとんでもないスピードで逃げるルミアを追って、暗い草原を走りながら考える。
どれくらい離したかなと気になり、ふと後ろを向く。
「全然離れてねえええええ‼︎」
ゾンビってノロマじゃないのかよ⁉︎
マズい。もし俺の知っているゾンビなら、体力の概念はないはずだ。となると、このまま走っていては、いずれ俺の体力が切れて追いつかれる。
どうする、どうする俺! 応戦するしかないのか……?
「クソッ! やってやる! おらあああああああ!」
覚悟を決め、振り向きざまにナイフを突き出す。
俺のナイフは、運良くゾンビの額に突き刺さった。
ナイフはギルドから借りた物だがしょうがない。動きが止まった今がチャンスだ!
逃げようと再び前を向いた瞬間──。
ドタッ。
背後から倒れるような音が聞こえた。
恐る恐る振り返ると、ナイフが額に突き刺さったままのゾンビが地面に倒れていた。
「首落とさなくても倒せるのか……」
ゾンビからナイフを引き抜くと、ボロボロとその肉体が崩れていく。
「なんか、俺の知ってるゾンビと違う……」
「アンデッドは魔力で肉体の形を保ってるからね。死んで魔力がなくなれば、形を保つ支えがなくなって灰と化す」
腕組みをしてアンデッドの説明をするルミアが、草陰から出てくる。
こいつ、一目散に逃げ出したくせにノコノコ出てきやがって。
「にしても驚いたなあ! 雑魚ステータスなのにちゃんと戦えるなんて! 見直したぞレイジくん!」
誇らしげに肩をポンポンと叩いてくる。
「おい、バカにすんな。逃げやがったくせに」
「え、あ、いやあー、その、キミの力を確かめるためにね……うん、決して逃げたわけじゃないんだよ? 本当に……」
うん、やっぱり。
ダメだこいつ‼︎
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