【その神、人任せにつき】2
「えーっと、もう一度言ってもらっても?」
「レイジ様。全てのステータスが基準値を満たしておりませんので、大変申し訳ないのですが、当ギルドでは冒険者登録をお受けすることはできません……」
街の人に聞き、ルミアとギルドにやってきた俺は、早速冒険者の登録手続きをしていたのだが──
「なんで?」
「なんでと申されましても……ギルド職員になってかれこれ7年ほど経ちますが、ここまで低いステータスの方が冒険者登録をしに来たのは初めてなもので…………」
恥ずかしさで顔に血が昇ってくるのを感じた俺は、受付のお兄さんの憐れむような視線を無視しながら、ギルド内のベンチに腰をかける。
「よっこらせ」
おっさんみたいなセリフで隣に座るルミアに、俺は問いかける。
「俺って勇者でいいんですよね……?」
「うん、うん。勇者だよ勇者。ん、んん、プフッ!ま、まさかここまでとはね……」
…………。
「今笑いました?」
「笑ってない」
「いや笑ってただろ! てかその言い方、まさかってことは俺のステータスが低いの、最初から知ってましたね?」
「ふふ、うん、知ってたよ。知ってたっていうか、召喚したい人の条件が魔素量の少ない人だったから、必然的にステータスも低いわけで……」
なんてことだ。
すでに俺は王国軍とかにスカウトされた時のセリフまで考えていたというのに…………。
にしても、魔素量の少ない人が条件とはどういうことだろうか。
「まあまあ、君は異世界から来たんだ。レベルだって、まだたったの1。レベルを上げればステータスも上がる。だからそこまで気にする必要はないさ」
そう言いながら、ルミアが慰めるように背中をさすってくる。
俺はほんとに勇者なんだろうか。
側から見れば、ステータスが低すぎて冒険者になれず、女の子に慰められているようにしか見えないだろう。
「とりあえずレベル上げに行こ! 今は子供並みのステータスでも、5レベルくらい上げれば登録に必要なステータスにも十分届くはずだし!」
俺のステータスって子供並みなのか……。
「レベル上げってどうやって?」
俺はステータスどん底な上に武器もなければ装備はシャツとスウェットだ。
こんな状態でモンスターなんかと戦ったらどうなるかなんて、火を見るより明らかだろう。
そんな俺の疑問にルミアは、「ふふーん」と鼻を鳴らし、羽織っていたクロークの内側を弄る。
「レベル上げには色々あって、勉強したり運動したり……でも一番効率がいいのはモンスター狩りかレベル上げ用の強化ポーションだね」
クロークの内ポケットをゴソゴソしながらルミアが話す。
というか、勉強や運動でレベルが上がるのか。思ってたのとちょっと違うな。
「あったあった、君にはこれを贈呈しよう」
そう言いながら俺に差し出されたのは、深い海のような色の宝石がついたネックレス。
「……これは?」
「それは、私の魂の片割れを結晶化したものだよ。この世界の生物は、生まれた時に一定以上の魔素を持っていると、精霊が取り憑くんだ。取り憑いた精霊は、その魔素を取り込み魔力として蓄積する。魔法を使うにはその魔力が必要なんだけど、君は魔素が少ないから精霊が憑かない。だからその結晶が、君の精霊代わりってわけさ」
神の魂の片割れ……。
男の子なら誰もが一度はかかる病を患った時に、母親のイヤリングを勝手に持ち出し、同じような設定をつけたことがあった。
確かあの時は神の魂じゃなく、魔王の片割れだった気がするが。
そんなことを考えながら、ネックレスを腕に巻く。
「おお……! おおお‼︎ …………何も起こらないんですけど」
装備したら結晶が光り出して力が漲ってくる……とかを期待していたが、特に何も起こる気配はなかった。
「キミがどんなことを期待していたのかわからないけど、別にそれをつけてもキミの
ステータスは変わらないからね?」
確かに精霊の代わりだと言っていたし、ステータスが上がるなんて説明もされていないが、俺はまだ勇者としての奇跡とか才能を諦めてはいない。
「よし、じゃあ早速モンスターを討伐に行こう! そこでキミに魔法を教えるよ!」
魔法。魔法か。せっかく魔法のある異世界なのだ。
ここまではちょっと酷かったが、英雄譚として語られる時はカットしてしまおう。
ここからがスタートだ。
存分にぶちかまして、英雄譚の最高の導入部にしてやろう!
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