【この神、人任せにつき】5
「僕はメルトル。日夜魔法研究に勤しむ、しがないウィザードさ。君たち、魔法を教えてくれる人を探しているんだろう? 良かったら僕が力になるよ」
……なんだろう。俺が疑っているせいかもしれないが、自己紹介もなんだか胡散臭さを感じる。
「早速魔法使いが見つかったね! 優しそうな人だし、やったねレイジくん!」
ルミアが無邪気に笑って見せる。
うん、そうだよな。折角声をかけてくれたんだ。
怪しがってちゃ失礼だよな。
「えっと、俺たち魔法を教えてくれる人を探してて。あ、でもその、まだこの街に来たばっかで金なくて……」
「ああ、大丈夫大丈夫。別にお礼が欲しくて言っているわけじゃないから」
そう言いながら微笑むメルトル。
その糸目の下には、端正な顔に似合わぬ濃いクマができている。
「声をかけたのは、君のことが気になったからなんだ」
メルトルの言葉に、ルミアが頬を赤くして、俺とメルトルを交互に見てくる。
「レイジくん、こ、これってつまりそういう……」
「すみません、俺の恋愛対象は女性なので。では」
足早に立ち去ろうとする俺の腕を、メルトルが焦って掴む。
「ちょっと待ってくれ! 恋愛対象って一体なんのことだ⁉︎」
「や、やめろ! 俺にそっちの気はないんだ! やめてくれ!」
「ちょっ! 君! 何か勘違いしてないか⁉︎ 僕は別にそういうつもりで言ったわけじゃない! そこのお嬢さんも、そんな顔で見ないでくれ!」
面白いものでも見るような目で俺たちを眺めていたルミアが、ニコッと微笑み。
「大丈夫。あたしのことは気にしないで。そういうのもアリだと思うよ」
「ちっ違う! 説明させてくれ! 僕は断じてそっち系じゃないから!」
──ギルド内で騒いだせいで、職員の人に若干白い目で見られ始めた俺たちは、必死で弁解してくるメルトルの話を聞くため、近くの食事処に来ていた。
「ぷはあー‼︎ お茶ってこんなに美味しかったんだねー‼︎ 生き返るー」
「うわっ! これウマ! 肉汁すごっ!」
奢ってくれるというメルトルに甘え、俺たちは遠慮なくご馳走をいただいていた。
何せ昨日から何も食べていないのだ。ゾンビが脅かしてきたせいで、食べれるはずだったりんごも、どこかに落として失くなってしまった。
「喜んでもらえてるようで何よりだよ。それで、僕の話を聞いてもらってもいいかな?」
「ああ、はい。どうぞ」
食事に浮かれて忘れていたが、そういえば此処に来たのはメルトルの話を聞くためだった。
「…………あたしは席外したほうがいいかな? 因みにさっきも言ったけど、あたしは全然アリだと思うよ。そういうのには寛容なんだ」
ギルドでのメルトルの弁解を、誤魔化しだと受け取ったのか、未だにルミアはメルトルをそっち系だと思っているようだ。
ルミアの発言に、メルトルが飲んでいた水を吹き出す。
「だ、だから違いますって! 席を立とうとしなくていいですから! 気になったっていうのは、彼の魔力のことです。」
魔力……、そうか。
俺は魔素量が少なくて精霊とやらが憑いていないから、魔力が無いんだったな。
……いや、それとも俺自身のことではなく、このネックレスの魔力を指しているのか?
神の片割れなんて代物だ。相当な魔力を纏っているのかもしれない。
と、ルミアが若干顔を引き攣らせながら口を開く。
「へ、へえ。あなた、もしかして魔力が知覚できる感じなのかな?」
ルミアのその問いに、メルトルは少し恥ずかしそうに。
「いやあ、知覚できるってほど立派なものじゃ無いですよ。父にはそれができたみたいですが。僕は、どのくらい魔力を貯めているのか、それがどのような魔力なのか、なんとなく分かる程度です。なのですが……」
そこまで言って、メルトルが顎に手を当て、じっと見つめてくる。
「父がよく言っていたんです。人の持つ魔力、詰まるところ精霊の魔力と、魔族の持つ魔力は大きく違うものだと。魔族は人に化けることがあるそうです。目の前の生物が、人か人でないかは、見た目ではなく魔力で見なさい、と。……君の魔力はなんというか、人とは違うように感じる。しかし、魔族やモンスターのような禍々しさはない……むしろ、どちらかというと大精霊のような──」
「あーっと! この子は遠い国からやってきたんだ! 魔力が他の人と違うのは多分そのせいじゃないかなー? あ! そういえば、魔法を教えてくれるんだよね! 魔法を研究してるなら、研究所とかあるんじゃない? よければ続きはそこで……ね! レイジくんも早く魔法使ってみたいでしょ? ね‼︎」
両手をわたわたとさせながら、ルミアはメルトルの話を遮る。
急に早口で捲し立てるルミアに驚いていると、まだ飲みかけだった水を一気に飲み干したメルトルが立ち上がる。
「そうでしたね! では私の研究室にご案内します。そこで、私が使える限りの魔法をお教えしましょう!」
そう言うメルトルの表情は晴れやかで、裏切りそうな雰囲気などどこにもなかった。
俺は心の中で、声を掛けられた時、物語中盤で裏切りそうな男だと思ってしまったことを謝った。
そうして俺たちは店を出て、メルトルの研究室へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます