第23話 どきどきプールデート

お盆が近づき、藍田家の両親は、なんだか浮かれている。

明らからに2人で旅行に行くような、大きなスーツケースが二つ用意してある。


「どっか行くの?」


柚羽は母に聞く。


「うん。あのね、お盆休みを利用して、あたしとお父さん、笑輝くん・・・愛那ちゃんのお父さんの所に遊びに行くって事になったの。」

「愛那のお父さんって、フランスに行くの?」

「そう。」


柚羽はソファに横たわる。


「いいなぁ。俺も行きてえ。」

「また連れてってあげるわよ。とりあえず今回は、ねっ。」


愛那は母と国際電話をしている。


「そうなんだ。柚羽のお父さんとお母さんと会うんだね。」

「そう。ビックリしたわよ。まさか、パパのお友達の息子さんと、愛那がお付き合いしてたなんて。どうして言ってくれなかったのよ。」

「ああ、ごめん・・・」


――言ったらきっと、ママ大騒ぎするからなぁ。


「まあでも、柚羽君なら、ママ達も安心だわ。あの子の両親は、ほんとに良い人だから。」

「うん。そんな感じ。柚羽も良い人だから安心して。」

「そうね。バレーはどうなの?楽しい?」

「うん。夏休みが終わると、春高バレーの県予選が始まるから、みんな、それに向かってがんばってるよ。3年の先輩は、それで負けたら引退なっちゃうの。」

「そうなんだ。頑張ってね。」

「うん。ありがとう。ママ達、いつ日本に帰ってくるの?」

「そうねぇ、藍田夫婦が帰る時に、一緒に帰ろうと思ってる。」

「わかった。じゃあ、その時をたのしみにしてるね。」

「うん。ママも、成長した愛那に会えるのをたのしみにしてるわね。」


愛那は電話を切った。

久しぶりにパパとママに会える。

日本に来て数ヶ月。

毎日、楽しく過ごしているとはいえ、まだ16歳の女の子。少し、両親が恋しくなっていたところだった。

ちょうど、その時、柚羽からラインが来た。


――お盆休み、俺の親、愛那の両親に会いに行くって。その時、一緒に出かけよう。


「はいはい。わかったわよ。」


愛那は了解のスタンプを送る。

すぐに既読がつく。


――お泊りセットも持って来てね♡


「ええ!?」


――お、お泊り!?柚羽の家に?それって、その、そういう事になっちゃうよね!?


胸がドキドキする。

周りの友達には経験済みの子はいる。

けど、柚羽は、愛那にとって初恋で、初めて親しくなったひとだ。

一体、どうしていいのかわからず、スマホで検索してみる。


――え、ええ!?ヤダ!あたし、できるのかな、こんなこと////

てか、みんな恥ずかしくないのかな////

恥ずかしくて、できないよ////


愛那は興奮のあまり、寝る事ができなかった。


◇◇◇◇◇


「じゃあね、柚羽、行ってくるわね。」


父と母はウキウキしながらフランスへと出かけた。

姉は彼氏の家にお泊りだ。

柚羽は、そそくさと部屋の掃除を始めた。

柚羽の足元で、愛犬のルマリが、首をかしげるように、柚羽は見つめる。


「ルマリ〜、ごめんなぁ。今日と明日は、お前の相手してやれないんだぁ。」


柚羽はルマリを抱きしめる。

ピンポーン。

インターホンが鳴る。

愛那だ。

玄関を開けると、やや緊張気味の愛那が立っていた。


「お、おはよう。」

「おう。」


愛那はリビングに荷物を置く。


――変じゃないかな、この水色のワンピース。


「もうすぐ、バスの時間だから、それに合わせて行こうか。」


2人はとりあえずバスで近くのプールに行く事になった。

練習で、あまりデートができない2人にとって、まだ数回目のデートでドキドキしている愛那に対して、柚羽のシラッとした冷たい態度は少し寂しく感じた。

バスに乗り、並んで座る柚羽の横顔をチラッと見る愛那。


――このワンピース、やっぱりよくなかったかな・・・


少し落ち込む愛那の左手を、柚羽はそっと握った。

指と指を絡ませた『恋人繋ぎ』

愛那は、柚羽を見ると、柚羽また、愛那と目を合わせ、微笑んだ。

嬉しくも、照れくさくて、正面を見る愛那。


――柚羽・・・大好きだよ・・・♡


プールに着き、水着に着替え、2人はプールサイドで待ち合わせる。


――恥ずかしいなぁ。やっぱりワンピースタイプにすればよかったかなぁ。


赤いリボンの付いたビキニに着替え、愛那は恥ずかしそうにお腹の辺りを隠しながら歩くと、


「ねえ見て、あの人、カッコイイ・・♡♡」

「いくつかな、声かけちゃおっか♡♡」


周囲の女の子達の声が聞こえる。

彼女達の視線の先には、スラッとした長手足

、6つに割れた腹筋、厚い胸板、完璧としか言いようのないスタイルの柚羽が立っていた。


――カ、カッコ良すぎる!!!


「お兄さん、1人ですか?」


女の子達が柚羽に声をかける。


――いや、やめて!!その人は、あたしの彼氏だよっっ!!


愛那は柚羽のもとに行こうとする。


「お姉さん、お一人ですか?」


――はい?


隣を見ると、知らない2人の男が、愛那に声をかけてきた。


「いえ、あたしは、彼氏と・・・」

「え?彼氏?彼氏が来るまで俺たちと遊ぼうよ。」


2人の男は、愛那の前を防ぐように立った。


「困ります・・・!!」

「すみませんが、俺の彼女に何か用ですか?」


男達の後ろから、柚羽が現れた。

190センチの筋肉質の男が現れ、2人はそそくさと去って行った。


「なにナンパされてんの。」

「そっちこそ、女の子に声かけられてたじゃん。」

「俺はすぐ断ったよ。」

「あたしだって!!」


大きな浮き輪に2人でつかまりながら、流れに身を任せる。


「可愛すぎなんだよ・・・」


柚羽がボソッと呟く。


「なに?聞こえない。」

「なんにもねえよ。」


幸せな時間だった。




 


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