第22話 どんな子が好き?

「ようやく来たわね。サボりのエース!」


体育館では令実が仁王立ちで柚羽の前に立つ。


「サボりじゃねーよ。イロイロ考えてたの。なんで負けたのか。」

「考えたっていうか、いじけてたんでしょ。」


柚羽はシューズの紐を結ぶと立ち上がった。


「うるせぇなぁ。いじけてねーし。」

「エースがこんなに弱いと困っちゃうわよ。」

「はぁ。誰かこのウルサイ女を黙らせてくれ。」


柚羽はボールを取る。


「安、パス付き合って。」

「あ、はい!」


安は急いで柚羽の元に走った。


「まったく、子供っぽいんだから。」

「あいつの子供っぽいのは今に始まった事じゃないさ。ほっといても、ちゃんと帰ってくるから気にする事は無い。」


唐田は令実をなだめた。


「そうね。」


「藍田先輩、復帰したね。」


侑里禾は愛那と対人パスをしなが言う。


「そうだね。」


愛那は、柚羽の視線が気になったが、わざと気づかない振りをしていた。


バンっ!


「あっ!」


愛那の打った球を、侑里禾が弾いた。

侑里禾はボールを取りに走る。


「すみません。ありがとうございます。」


足元に転がってきたボールを、安が拾う。


パシュ。


侑里禾は軽く投げかえされたボールを受け取るが・・・・

今まで気にした事がなかったが、安の何気ない仕草にキュンとしてしまった。


――なんで、今まで気にした事なんて無かったのに・・・


自分でも良くわからない感情に、戸惑った。


「ごめんね。侑里禾。」

「ううん。大丈夫。こっちこそゴメン。」


――集中しなきゃ、集中、集中。


「愛那、打つのだいぶ上手くなったね。ちゃんと狙って打てるようになったね。」

「そう?ありがとう!最近、しっかり手に当たるようになったから。」


愛那は手首を前後に動かす。

そんな愛那の姿を見て、侑里禾も笑顔になるが、チラッと横目で安の姿を追ってしまう。


――ダメダメ!集中、集中!


練習が終り、侑里禾は自宅に着いた。


「ただいま。」

「おかえり、侑里禾。手洗って来なさい。」


侑里禾の自宅は、1階が父親が経営する美容院、2階、3階が自宅になっている。

玄関を上がり、そのまま脱衣場に向かい手を洗うと、自室に行き、部屋着に着替えた。

ジュウ〜ジュウ〜

キッチンでは母親が海老フライを揚げている。

母親も昼間は、美容師として父親と一緒に働いている。

いい匂いが部屋中に充満している。


――お腹すいた。


侑里禾は母親の後ろを通り、冷蔵庫から麦茶を出す。

トクトクトク・・・

グラスに麦茶を注ぐと、口を近づけながらダイニングチェアに座った。

左手でスマホのゲームをしながら、麦茶を飲む。


「練習どうだった?」

「疲れた。」


ぶっきらぼうな会話だ。

だが、別に母と仲が悪いわけではなく、侑里禾にとっては、これが普通だった。


「ああ、母さん、腹減ったぁ〜」


3階から、2歳上の兄、啓太が降りてきた。


「お、海老フライじゃん。やったね。」

「もうすぐできるから、侑里禾、お皿持って行って。」


侑里禾は黙って席を立ち、取り皿を出した。

そして、炊飯器から自分のご飯をよそう。


「お前すごいなぁ。」


にっぽん昔話の山盛りご飯のようによそったご飯を見て、啓太は呆れたように言う。


「JKは、もっとダイエットや、周りの目を気にして少食なんじゃねえの?」

「練習たくさんしたから、これくらいいいの。」


侑里禾は啓太の隣に座ると、いただきますと手を合わせ、ご飯と頬張り、味噌汁をすすった。


「はあ、高校になってもバレーバカか。色気ねえなぁ。彼氏もできないな、こりゃ。」


――うぐっ・・・


味噌汁が、へんなとこに入りそうになる。

啓太はテレビを付けると、韓国アイドルが歌っていた。


「かわいいなぁ。サニちゃん♡お前も、こんな感じにしたらどうだ?今のままじゃ、男か女か、わかんねぇよ。」


――うるせぇ兄貴だな。自分の妹を自分好みにしてどうする。


「ごちそうさま。」


食事を終えると、侑里禾は自分の部屋に向かった。

1階の美容院と繋がる階段から、父親が仕事を終え、上がってきた。


「おう。侑里禾、もう飯食ったのか?」

「うん。」


返事だけすると、3階へと向かった。


――髪・・・少し伸ばそうかな・・・


耳が出るようなマッシュショートの髪を触りながら、侑里禾は鏡を見た。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る