第21話 子供っほい彼氏

試合が終り、愛那は帰路に着く。

試合結果は、岡北のストレート勝ち。


「じゃあね、愛那、また明日ね!」

「うん。お疲れ!」


愛那はみんなと別れた。


――すごかったな。先輩たち。


愛那はスマホを取り出す。


――柚羽達、どうなったんだろ。すっかり連絡するの忘れてた。


スマホのメッセージを確認する。


「おい!」


ビクッ!!


振り返ると、柚羽がいた。


「少しは連絡くれたって良いんじゃないのか。」

「ごめん、バタバタしてて、連絡しそびれちゃった。」


柚羽はゆっくり愛那に近づく。


「お前ら試合どうだったの?」

「勝ったよ!勝ち進んだから、明日も試合!」

「そっか。良かった。俺らもだ。」

「そうなの!?良かったー!」


柚羽はニコッと微笑んで、愛那の肩を抱いた。


「愛那も早く試合に出られるといいな。」


ぎゅっと肩を抱かれ、愛那の顔が赤くなる。


「う、うん。」

「がんばれよ。お前と一緒に春高行きい。」

「は、春高?」

「うん。」

「春高って・・・・なに?」


柚羽の目が丸くなる。


「春高、知らねえの?」

「うん。なにそれ。」


――そっか、日本にいた訳じゃないもんな。


「春高ってね、野球でいう甲子園みたいな感じかな。あ、甲子園って知ってる?」

「あ、それは、夏にばあばの家に帰ってきた時に見た事ある。」

「高校バレーやってるヤツなら、みんな憧れる大会なんだよ。」

「そうなんだぁ・・・」


――春高かぁ。


愛那の家の前に着く。


「じゃあな、明日も早いだろ。」

「うん、お疲れ。明日も頑張ってね。」

「うん。じゃあな。」


柚羽は、軽く手を振って別れた。

愛那は、柚羽の後ろ姿を見送り、家に入ろうとする。


「愛那、今帰ったの?」


振り返ると伯母の笑愛が仕事から帰宅したところだった。


「今の男の子、彼氏?」

「え・・・?う、うん。」

「そっかぁ、愛那、彼氏できたんだぁ。スタイル良い子ね、バレー部?」

「うん。1個上。あ、笑愛ちゃん、みんなには、まだ言わないでね。まだ、付き合いたてだから・・・」


愛那はうつむきながら言った。


「うん。わかった。確かに、みんな大騒ぎしそうだしね。さ、入ろ、入ろう。」


愛那と笑愛は家に入った。


◇◇◇◇◇


7月末。


終業式。

教室の外はセミの声がウルサイくらいだ。

教室では先生の話が終り、みんな帰り支度を始めた。


「愛那は今日も部活だよね。頑張って!」


心捺が声を掛ける。


「うん、カラオケ、なかなか行けなくてゴメン。練習休みの日、教えるから、その時に一緒に行こう。」

「うん。うん。大丈夫!気にしないで。そうだね、休みの日に行こう!」


愛那は急いで教室を出る。


インターハイ予選。

愛那と柚羽達はともに準決勝まですすんだが、お互い、準決勝で負けてしまった。


愛那は、準備を終え、体育館で、柚羽の姿を探すが、彼の姿は無かった。


「藍田先輩、ずっと来てないね。ケガでもしてるのかな。」


紗代がネットを張りながら言う。


「エースがこんなに休むなんて、どうしたのかしらね。チームとしても困るわよね。」

「ケガや、体調不良じゃなきゃいいけど。」


知佳と、侑里禾も心配そうに男子コートを見る。


練習が、終わると、愛那は柚羽にメールを送った。


――柚羽、今日も練習来てないじゃん。どうしたの?ケガでもしたの?


待っても返事は来ない。


――もうっ!


愛那は、柚羽の家を訪ねる事にした。


ピンポーン


「はい。」

「あの、春川と申します。柚羽君に、お会いできますか。」

「あ、はい。ちょっと待ってね。」


しばらくするとドアが開き、柚羽の母が笑顔で出迎えた。


「愛那ちゃんね、大きくなったわね。あたし、小さい頃、会った事あるのよ。あなたのお父さんと同級生だから。」


突然の事に、愛那は驚いた。


「そうなんですか?すみません。覚えてなくて。」

「いいのよ。ほんとに小さい頃だから、仕方ないわよ。だけど、お母さんにそっくりね。」

「はい。よく言われます。」


自分の両親を知ってる人との会話は、なんだか照れくさかった。

愛那は母親に部屋に案内された。


コンコン


「失礼します・・・」


愛那は、そっと柚羽の部屋を開けた。

柚羽は、1人、ベットに横たわりながらスマホを見ていた。


「何を見てるの?」

「・・・前の試合の動画。」


なんだか機嫌が悪そうだ。


「最近、なんで練習来ないの?」

「・・・・」


ゆっくりと、起き上がる。


「こっち来てよ。」


柚羽は自分の隣に、手を置く。


愛那は、数ヶ月前の事を思い出し、恥ずかしくなり首を横に振る。

「まあ、いいや。じゃあ、そこに座ったら。」


勉強机のイスを指さす。

愛那は、そこならと、イスに座った。


「彼氏の部屋に来たんだから、隣に座るくらい、いいんじゃないの?」


柚羽は、少しすねたように言う。


「今日は、柚羽がずっと練習休んでるから、心配になってきただけ。」

「心配って、別にマネージャーじゃないんだし、そんな事はマネージャーに任せとけばいいんだよ。」


柚羽の態度に、愛那は少しカチンときた。


「心配だよ。前の試合で負けてから、全然練習こないし。」

「だから、それさマネージャーの仕事だろ。」

「じゃあ、どうしろって言うの?」

「彼女だったら、彼女にしかできない事してよ。」


愛那はイライラしてきた。


「何よそれ。彼女は心配しちゃいけないの?あたしは柚羽と部活でしか会えないんだよ?その貴重な時間に会えないんじゃ、寂しいし、なんか、ケガとかしてんのかなって思うの、彼女なら普通じゃない?」


柚羽もすねながら反論する。


「だったら、隣に座ってくれてもいいじゃん。」

「隣と、ここが、どう違うのよ!?」

「じゃあ、違わないなら、どうしてそっちに座るんだよ。」


――え・・・・・と。

それは・・・だって・・・


「令実も唐田も、みんな大丈夫か?練習来いよって。それは、ありがたいけど。愛那は、彼女なんだから・・・もっと違う励まし方があるんじゃないのか?」


愛那は少し考えた。


「じゃあ、夏休み、練習お休みの日にプールとか行こうよ。その日は・・・彼女として、柚羽の好きにしていいよ。」

「え、マジで?」


愛那は頷いた。


「よし!わかった!明日っから練習行くわ。俺!」


柚羽はスマホの動画を止めた。









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