第17話 ヤキモチ男

若宮は柚羽の前に立ち、動かない。


「どいてほしいんだけど。」


柚羽は若宮を見おろしながら言う。


「俺はそっちに行きたい。お前がどけ。」

「ちっ☆」


――え?!柚羽、舌打ちした?舌打ちは良くないよ!


柚羽は、かなりイラついた顔をする。


「行くぞ。」


若宮を避けて行こうとする。

愛那は若宮をチラ見しながら着いて行く。


「なんだ、可愛い子つれて。バレーの練習より、『ソッチの練習』に精出してるのか!

あ、『精子』出してんのか!」


――なっ!なんて下品な事言ってんの!?コイツ?!バカじゃないの!?しかも、まだヤッてないし!!


愛那は恥ずかしさと怒りで一言言おうとした。


グィッ!!!


柚羽が、若宮の服をつかんだ。


「いい加減にしろよ、バカ宮。俺はお前らなんて全く相手にしてねえ。お前らとやんなきゃ次に行けねえから、やってやるだけだ。

それから残念だけど、顔なんて生まれつきでどうにもなんねえ。恨むんなら親恨め。

そんなに顔面が気になるなら、金貯めて成形でもしろ。ブサイクなのは可哀想だと思うが、イチイチイケメンに絡むな。わかったか!」


――柚羽、冷静に、なんて酷い事言ってんの!?ブサイクブサイクって・・!!


「い、痛え。服が伸びる、服が!」


柚羽は若宮の服をつかをだまま、左右に揺さぶる。


「こんな事してる暇があったら、練習して、1点でも取れるようにしとけ!バカ宮。」


つかんでいた手を離すと、スタスタと歩きだした。愛那も急いで着いていく。


「バカは、お前だ!俺はワカミヤだ!バカ宮じゃないわ!バーカ!!」


周りの人が驚き、若宮を見る。


「マジで無いわ。バカな奴だ。」


柚羽は呟く。


「アイス溶けちゃったなぁ。バカのせいで。」


柚羽は残念そうにアイスを見る。


「あの人、対戦相手なの?」

「そう。1回戦で当たる矢田高のヤツ。初めて対戦した時に、俺の顔にアクエリかけてきやがったヤツ。」

「ええ!?そんな事する人いるの!?バレーってこわっっ!!」

「あいつは特別だよ。噂だと、イケメンが気に入らないんだって。」

「イケメン・・・♡」


ニヤける愛那を、柚羽は得意な顔をして見る。


「俺、イケメンだって。良かったね。」

「・・・なんで、あたしが良かったの?」

「ん?だって、イケメンを近くで見られるから。まあでも、俺の方が良かったか、愛那みたいな美女を近くで見れるから。」


――もうっ!こういうの、ホントずるいんだけど。


言われなれてるセリフも、柚羽が言うと、最上級の褒め言葉になる。


◇◇◇◇◇


加藤は自宅で、過去の試合動画を見ていた。

南高とは去年の新人戦で対戦した事がある。

同じ学年のエース、今泉 由衣。

加藤と同じ175センチ、アウトサイドヒッターだ。

相手のブロックと、その先のレシーバーまで、相手コートをよく見て打ち分ける事のできる選手だ。

新人戦では、フルセットに持ち込むも、5セット目に入ったところで、岡北は、加藤の体力が無くなり、後半はどれだけスパイクを打っても決まらなくなり、15−11で負けてしまった。

加藤は何度も何度も、試合の動画を見返した。

その顔は、悔しさを滲ませ、リベンジに燃えていた。


愛那は、いつものようにジョギングに出る。

しばらく走ると、安に出くわした。


「安君!」

「愛那ちゃん。」


2人は並んで走る。


「いつも走ってるの?」

「ううん、試合が近いから、少し体力をつけようと思っただけ。愛那ちゃんは?」

「あたしは、ほとんど毎日。」


2人は走り続けると、公園で、柚羽が待っていた。


「あれ。藍田先輩!」

「安。」


愛那は少しきまづい顔をする。


「先輩も走ってるんですか?奇遇ですね。今、愛那ちゃんとそこで会ったんですよ。」

「ああ、そうなんだ。」

「先輩も一緒にどうですか?」


安は屈託の無い笑顔で言う。

柚羽は愛那を見る。


――ああ、また怒ってる。この顔をは完全に妬いてる。


「いい。俺は1人の方がラクだから。」

「そうですか。残念。ではまた、明日、よろしくお願いします!」


安は頭を下げる。


「行こうか、愛那ちゃん。」

「う、うん。」


愛那は、柚羽の顔を見ながら走りだす。

柚羽は完全に不貞腐れている。


「『愛那ちゃん』じゃねーわ。」


柚羽はボソリと言った。







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