第16話 バカ宮君

2週間がすぎ、中間テストも終り、再び部活動が再開された。

愛那達はネットを張り、アップを終えると、岡本先生が入ってきた。

加藤の号令で、全員集まる。


「この間、加藤とインターハイ予選の抽選に行ってきたが、相手は桜ヶ丘高校だ。ここには、まぁ勝てるだろうが、勝った場合、シードの南高校と当たる。ここはかなり厳しい試合になるだろうから、みんな自分の注意された事など、意識して気合を入れて、練習に取り組むように。以上!」


「南って、どんだけ強いのかね。楽しみだね。」


紗代はパスをしながら言う。


「南は確か去年のインターハイ予選で3位だったと思う。」

「ひぇ~そんなに強いの?」


隣で知佳とはパスをしていた侑里禾が言うと、紗代は驚く。


男子でも、顧問の佐々木先生がインターハイの対戦相手を発表する。


「今回も1回戦は去年と同じ矢田高校だ。ここには、勝てるけど、去年の事もあるから、みんな気をつけるように。とくに藍田!

キミにその気はなくても、相手の・・・若宮がかってに絡んでくる可能性があるから・・

なるべく避けるように!」


柚羽はため息をつく。


「はーい!」


適当な返事をする。

その様子を見て、安は令実に小声で尋ねる。


「なんか、あったんすか?藍田先輩と、その、矢田高校の人。」

「ああ、若宮くんね。くっだらない話よ。また教えてあげる。」


令実は目を細め、遠くを見ながら言った。


「まあ、若宮の事はほっといて、次は勝たないとな。」


セッターの唐田漣(2年)182センチ

が、柚羽に声をかける。


「だな。」


柚羽は気合を入れる。

コートに入り乱打が始まる。


「漣!」


リベロの成宮がレシーブをあげる。


「ゆず!!」


唐田は柚羽にトスを上げると、柚羽は、思いっきりボールを床に叩きつけた。


「スゲー!」


ベンチの安が興奮した感じで声を出す。


再び成宮が、サーブカットをすると、すかさず唐田がボール下に入る。


「A!」


柚羽はネットから顔が出るほどジャンプをし、身体を弓のようにしならせ、ボールをコートに叩きつけた。


「よっしゃ!!」


振り返り、右手でガッツポーズをする。


「いいね~。柚羽、気合い入ってるぅ。」


令実は笑顔で言う。


「去年、藍田はかなり悔しい思いをしたからな。今年は必ず優勝してインターハイ出場を決めたいと、誰よりも思ってるだろうな。」


佐々木先生が柚羽を見ながら言う。


「去年、どうかしたんですか?」


安が令実に聞く。


「去年ね、県予選の決勝までいったんだけど

フルセットのデュースで負けたんだよね。

その時、相手チームの選手が、1年がいたから勝てたって言ってたのが聞こえたみたいでね。去年、スタメンで出てた1年は柚羽だけだったから、かなり悔しかったみたいで・・・」

「かなりの負けず嫌いだからなぁ。藍田は。

いい選手だ。」


令実の隣で佐々木先生は独り言のように言うと、自分で頷く。


――かっこいいな。藍田先輩。


「キミも見てるだけじゃダメだぞ。吉田、安と交代。」

「は、はい!」


安は柚羽とタッチをする。

早速、相手コートのスパイクを、安がブロックで止める。


――やった!


だがすぐにレシーブで拾われ、安は再びブロックに飛ぶ。


――フェイント・・・!


安の右横を珠が落ちる。


――ヤバい!


安が手を出そうとした時、シュッ――!

柚羽がフライングレシーブで拾った。


「上がったぞ!」


柚羽が滑りながら叫ぶと、すかさず唐田がトスに入り、竹内が決めた。


「ナイス!」

「ゆず、ナイス!」


柚羽は軽く右手を上げた。


「先輩、ありがとうございます。」

「あれくらい取って普通だ。」


柚羽は顔色を変えずに言った。

安は、そんな柚羽を羨望の眼差しで見た。


練習が終り、安は柚羽に挨拶をする。

柚羽は、軽く右手を上げ、靴を履き替えると、急いで学校を後にした。

その後を、令実が通る。


「あ、小鳥遊たかなしさん!さっき言ってた、矢田の人の話、聞きたいんですけど。」

「あぁ、ほんっとにくだらない話よ。若宮、通称若宮バカミヤね。」


◇◇◇◇


「あー、あっちいなぁ。愛那、アイス買って帰るか。」

「うん!買ってくー!」


愛那と柚羽はコンビニに立ち寄り、アイスを選ぶ。

5月末なのに、ここ数年は真夏のような暑さだ。


「あたし、これにする。」

「一緒に買ってくるから。」

「あ、じゃあ、お金。」

「いいよ、これっくらい。」


柚羽は愛那のぶんも持ってレジに向かった。


――なんか、今更だけど、あたし、柚羽の彼女なんだよね。メッチャ幸せなんだけど♡


愛那は柚羽の後ろにピタッとくっつく。

会計が終り、店の外に出ると、身長170センチくらいの、一重瞼の細い目のだんごっ鼻のいやに唇の厚い、色黒の高校生が、柚羽に絡んできた。


「おう!誰かと思ったら!久しぶりじゃねーか、藍田!」


柚羽は、その高校生を見おろすと、疲れた顔をして、ため息をついた。


「ハァーッ。なんでお前が、こんなとこにいんだよ。」


愛那は柚羽の後ろで、2人の様子を見る。


――なんなの!?このガラの悪い、ちょっと頭の悪そうな変な子!


「敵城視察だよ!今度の予選で当たるじゃねーか!イケメンエースの藍田君!」

「はぁ。マジ意味わかんねえ。敵城視察って意味わかって言ってんのか?マジ疲れるわ。」


◇◇◇◇◇

「去年のインターハイ予選の1回戦で、矢田高校と当たったんだけど、そこのエースの当時2年の若宮君っていう子がいてね、自身の顔面がコンプレックスなのか、イケメンにやたらと絡んでくるの。」

「はぁ・・・」

「でね、試合前に、うちの柚羽に絡んできてね、一方的に、『バレーは顔でやるもんじゃねーぞ!』とか言って、手に持ってたアクエリを思いっきり柚羽の顔にかけたの。」

「はあ!?」

「柚羽、すぐにキレて、相手の襟首掴んで、その子、170くらいしかないから、つま先立ち状態になって、周りにいた唐田君とかが、慌ててて止めに入ったんだけど。最後、捨てゼリフに『バーカ!』て叫んで逃げてったの。」

「・・・・」

「その後の試合は、うちのストレート勝ち。しかも、0−25とか。

泣いてる選手の中、若宮君だけ、メッチャ柚羽を睨んでたの。バカでしょ?」

「・・・・いろんな人が、いるんスね。」

「それ以来、みんな若宮の事、バカ宮って呼んでるの。」

「はあ・・・・」







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