第14話 どうなってもいい

練習試合が終わると、しばらく中間テスト期間になり、部活は休みになった。

練習試合は5セット中、3セットを岡北が取った。

愛那達1年の出番は、5セット目に出せてもらえた。結果は負けてしまったが、今後に繋げる良い経験となった。


「ねえ、たまには一緒に勉強しようよ。」

「嫌だ。お前と一緒だと、喋ってばっかで全然はかどらない。」


授業が終り、帰りの準備をする柚羽に、令実は言う。


「大丈夫よ。あたし黙ってやるから。」

「黙ってやるなら、1人でやればいいだろ。」


不貞腐れる令実を適当にあしらい、柚羽はリュックを背負うと、教室を出た。


「もう、少しはあたしの気持ちもわかってよ。」


令実は口を尖らす。


「愛那、図書館行かない?」


1年のクラスも帰宅の準備をする。

愛那は柚羽と待ち合わせてるので、急いでいた。

リュックに教科書を詰め込む。

心捺に誘われるが、愛那は断った。


「ごめんね。柚羽と約束してるんだ。」

「あ〜、そうだった。はいはい。ごちそうさま。でも、たまにはあたし達にも付き合ってよ。」

「そうだね。ごめんね。」


心捺は、クイッと愛那の腕を引っ張る。


「勉強をするのよ。変なコトじゃなくて♡」

「あ、あたり前だよ!何言ってんの!」


心捺はニヤニヤしながら、愛那と別れた。

愛那は急いで靴に履き替え、柚羽と待ち合わせの公園に向かった。

本当は学校から一緒に帰りたいが、周りからイロイロ言われるのが嫌で、学校から少し離れた公園から一緒に帰っている。

心捺と快杜以外、2人の交際は誰も知らない。


「お待たせ。」


公園ではすでに柚羽が待っていた。

その頃、愛那のクラスに、安が迎えに来た。


「愛那ちゃんいる?」

「愛那はもう帰ったよ。」


1人で帰ろうとした心捺は答えた。


「早いな。」


安は下駄箱に向かった。


「あらやだ。三角関係?」


心捺は口元に手を当てた。


愛那は、そんな事とも知らず、柚羽と手を繋いで歩く。


「ほんとに、柚羽のお宅にお邪魔していいの?」

「ああ、昼間はみんな仕事で居ないし、姉ちゃんも大学だから、気を使わなくていいよ。」


――家に誰もいない・・・


愛那は、さっき心捺が言った事が頭に浮かんだ。


――イヤだ!へんなコトなんて、しないから!まだ早いから!


愛那は顔を赤らめ首を振る。


「何やってんだ?」


柚羽は怪訝な顔で愛那を見る。


「な、なんにも!」


――あたしってば、1人で何考えてんの!?恥ずかしい!!


20分ほど歩くと、柚羽の自宅に着いた。

60坪ほとの敷地の、3台分の駐車スペースの奥に、白い2階建の家が建っていた。

鍵を開けると、ルマリが玄関まで出迎えてくれた。


「ただいまー!ルマリ!!」


柚羽はルマリを抱き上げる。


「入って。」

「お邪魔します。」


玄関の左手にカジュアルの観葉植物が置いてあり、正面には2階に上がる階段がある。


「2階に上がって、スグ左が俺の部屋だから、先に行ってていいよ。」


そう言うと柚羽はルマリを連れてリビングに入って行った。

愛那は緊張しながら階段を登る。

階段を上がった左手に、濃い茶色のドアがあった。


――ここが柚羽の部屋。開けていいのかな。


カチャ


「失礼しまーす。」


そぉ〜っとドアを開け、部屋の中を見る。

正面には勉強机と、本棚と、その手前には小さなテーブルがあった。

とくに物も無い、シンプルな部屋だ。

愛那はゆっくり中に入った。

入ってスグに右側にベットがあり、その上に脱ぎっぱなしのスエットがある事に気がつき、愛那は1人で動揺した。


―――べ、ベットがなんであるの!?いや、あるのは普通か、あたし、1人で何考えてんの!?心捺が変な事言うから!!


「お待たせ。」

「きゃあ!」


愛那の声に、柚羽は驚く。


「なんだよ。」

「ごめんなさい。」


柚羽はテーブルに、ベットボトルのお茶とコーラを置いた。


「お茶とコーラどっちがいい?」

「あ、お茶で。」

「言うと思った。じゃ、俺コーラね。」


柚羽はクローゼットから、Tシャツを取り出すと、制服のシャツを脱ぎだした。


「ちょ、ちょちょちょっっ」

「あ、ごめん。上だけ着替えていい?」


そう言うと愛那に背を向け、着替え始める。

愛那は見てはいけないと思いながらも、ついついチラ見してしまった。

広い肩幅、たくましい広背筋と、太い二の腕。

このたくましい身体に抱きしめられる自分を思わず想像してしまう。


「じゃあ初めようか。」

「ええ!?ナニを!?」


振り返った柚羽に愛那は後退りをする。


「試験勉強だよ。」


はっ!!


愛那は我に返った。

自分は一体、何を考えてるのか、猛烈に恥ずかしくなった。

大人しく座布団に座り、勉強道具を取り出す。


――集中、集中。


2人はそれぞれテスト勉強を始める。

テスト勉強に集中してから1時間程が過ぎた。


「はぁ。疲れた!ちょっと休憩。」


柚羽はベットに横たわった。


「いいなぁ。柚羽。ズルい!」


柚羽は、愛那を見つめる。

ふと、愛那の足元を見る。

横座りしているスカートから見える白い太ももが、いやにセクシーに見える。


「こっちに来る?」


柚羽は優しく言う。

ドキッ


「ううん。そういう意味じゃ・・」


愛那はドキドキが止まらず、下を見る。

慌てて足の向きを変えようとしたせいで、スカートが少しまくれ、白くて色っぽい太ももがさらに見える。

柚羽も、鼓動が早くなるが、必死にこらえる。


「来ないの?」


愛那は、柚羽の優しい声に、どうしていいかわからず迷うが、惹かれるように、ゆっくり立ち上がり、ベットに近づく。

そして、ゆっくりと柚羽の隣に横たわる。

何が起きても、わからない。

でも、どうなってもいい。

愛那は胸の鼓動と、衝動を押さえる事ができなくなった。

柚羽は愛那の髪を優しく撫で、そっと口づけをした。

何度も何度も、包み込むような、優しく、けど、少し強引な、今までとは違うキス。

柚羽は、ブラウスのボタンを外そうとする。


「柚羽ーーー!!!誰かいるのーーー!?」


ドタッドタンッ!!!

柚羽の姉が帰宅した。

愛那は驚いてベットから転げ落ちた。



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