第13話 近づける人
岡本先生は、チョイチョイと、手招きで加藤を呼ぶ。
2人で話した後、加藤はコートに戻ってきた。
「ゲームやるから、スタメンチームと、反対コートに、石川、今井、世良、春川入って。あと、2年は交代で。」
愛那達は急いでコートに入る。
愛那はレフト、紗代はライト、侑里禾はバックライトに入った。
スタメンチームからのサーブでゲームは始まる。侑里禾が拾い、知佳にレシーブがあがる。
愛那はスパイクの準備をしたが、またしてもトスはライトの紗代に上がり、紗代のスパイクは、加藤に拾われ、竹内に決められる。
「ドンマイ。次つなごう。」
紗代は知佳を見る。
「愛那にトス上げないと。練習にならない!」
知佳は無視する。
その後も、知佳は愛那以外にトスを上げ続けた。
「選手交代!」
岡本先生が言うと
「世良と、堀、交代。」
「え?」
ベンチに下げられた知佳は不機嫌になる。
「気の合わない奴もいるだろう。それは仕方がない事だ。友達同士で作った訳じゃなく、たまたま同じ学校の、同じ年だったから集まっただけだ。」
岡本先生はゲームを見ながら、諭すように話しかける。
「だけど、みんな共通している気持ちは、少しでも上手くなりたい、試合に出たい、勝ちたいという事だ。その気持ちがあれば、充分じゃないか?」
侑里禾の拾った球を、堀が上げる、
「愛那!いけ!」
堀が叫ぶ。
バン!!
愛那は思いっきりボールを叩く。
だが、スタメンチームにブロックされてしまう。だが、2年生選手が必死で拾った!
「愛那!もっかい行くよ!」
堀はもう1度、愛那にトスを上げる。
――今度こそ、絶対に、決める!!
バン!!
愛那の打ったスパイクは、コーナーギリギリに決まった。
「やったー!」
みんなが愛那に集まる。
「良いコースだなぁ。」
岡本先生が感心すると、知佳は気まずい顔をする。
「堀はなあ、技術はそんなになんだが、アタッカーを乗せるのが上手くて、ミスっても、必ずまた上げるんだ。そうして、アタッカーも必死で打って、決まった時は、まるで自分が決めたかのように喜ぶ。世良にも、そういうセッターになってもらいたいなぁ。」
「・・・・。」
「バレーは6人でやるものだ。お前1人の気分でチームの雰囲気を悪くするのは良くない。」
堀がサーブを打つ。
「ひかり!」
足立が呼ぶと、加藤の鋭いスパイクが決まる。
ハァハァハァハァ
「やっぱり3年、すごっ。」
侑里禾が呟く。
ラストは足立のジャンピングフローターが決まり、スタメンチームの圧勝となった。
「ハァハァハァハァ。ドリンク飲んで集合!!」
岡本先生のもとに集まる。
「今度の土曜日に地区大会の抽選に、加藤に行ってもらう。どこと当たっても自分達の力を出し切れるように頑張ってほしい。
それから、1年生も、使える選手はどんどん使って行く。2年は気を抜かずに頑張るように!」
「はい!ありがとうございました!」
モップかけをしていると、2年の堀が愛那のもとに寄ってきた。
「最初は緊張してたのか、ジャンプも低かったし、ひじも少し下がってたけど、2本目は、高く飛んでたし、先輩の上を抜いてて、すごく良かったわよ。」
愛那は笑顔になる。
「ホントですか!?ありがとうございます!!」
愛那は心の中でガッツポーズをした。
知佳は、そんな愛那の姿を見ていた。
部室では、日曜日に行われる練習試合の説明をしている。
「ここのチームは何度か練習試合してるから、だいたいわかってると思うけど、うちと互角のチームだから、気を抜かないでいこう。絶対勝つよ!!」
「イエーイ!!」
2、3年がコールアンドレスポンスのように返事をする。
荷物を持ち、靴を履く。
「愛那。」
知佳が呼び止めた。
紗代は隣で知佳を睨む。
侑里禾も、近くで様子をみている。
「ごめん。」
「え?」
「あたしが悪かったから・・・次からは、一緒に頑張ろう。」
そういうと、足早に歩いて行った。
「なんだ?あの言い方。」
紗代は知佳の後ろ姿を見ながら言う。
「でも・・・謝ったのは確かだし・・・まあ、いっか。」
「へ?あんな言い方で許せちゃうの?」
愛那は、吹っ切れたように笑う。
「うん!いいよ。許す!」
紗代は驚く。
「なんて単純。」
愛那は両手を大きく振りながら歩き出した。
◇◇◇◇
「うん。それでね、初めてバシッ!!て先輩相手にスパイク決めたの!!」
「へえ〜すごいじゃない!」
「今度の日曜日に、練習試合もあるの。出れるかどうかは、わかんないけど、でも出れたらいいなぁ~。」
電話の向こうで、母は笑顔で会話する。
「愛ちゃんが試合に出れたら、ママ休みをもらって見に行きたいなぁ〜」
「うん!もし決まったら連絡するから、見に来て!パパも一緒に!」
「うん。バパにも伝えておくね。」
「あ、それからね。ずっと気が合わないと思ってた子がいたんだけど・・・なんか、上手くやれそうな気がするよ!」
母は、返答を詰まらせる。
「気の合わない子?そうね、そういう子もいるわね。でも、お互いにいろんな考え方があるから、自分が正しいと思う事をしていればいいんじゃない?それで近づける人もいれば、離れて行く人もいるけど。離れる人は、縁が無かったって事よ。」
「うん。」
「近づけた人は、大切にね。」
「うん。」
時間は9時を回っていた。
「そろそろ、お風呂入るから、またね!ママ。」
「はい。お休み。」
スマホを切ると安からラインが入ってる事に気がつく。
「今日のゲームの愛那ちゃん、スゲーカッコよかった!この調子で頑張って!」
愛那は素直に嬉しかった。
「ありがと!」
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