第12話 ヤキモチ
愛那は知佳の態度に怒りが頂点に行きそうだったのを、必死にこらえた。
「なんで愛那ちゃんにトス上げないんだ。」
安は独り言をボソッと言った。
――愛那ちゃん?
柚羽はピクッとするが、先輩として余裕を見せる。
「まだスパイクなんて打った事ないからな。とりあえずコートに入って動きを覚えればいいんじゃないか?」
「スパイク、打てますよ。彼女結構強いの。昨日練習しましたから。」
――昨日?練習?
「昨日は練習無かったけど。」
「あ、俺の親父、中学生のバレーのコーチやってて、昨日の午前中、彼女も練習に参加したんです。」
――は!?そういえば、昨日の午前中は何か用事があったって言ってたけど、安と練習してたのか!?
「すみません。勝手に練習は、ダメでしたか?」
安は柚羽の顔色を伺う。
練習がダメではなく、愛那と練習する事がダメなんだ!とは言えない。
「大丈夫だ。ケガだけはするなよ。」
「はい!ありがとうございます!」
柚羽は面白くなかった。
愛那と柚羽は学校から離れると、こっそり手を繋いで歩いた。
2人とも、それぞれ機嫌が悪い。
「もうさ、セッターの世良知佳、あいつホントに嫌だ。完全に、あたしに対する嫌がらせだよ、あれ。」
「まあな。全くトスを上げてもらえないのはキツイな。」
「あんなに練習したんだから、打てるのに。」
柚羽は、その言葉に反応した。
「そういえば、昨日、安と練習したんだって?」
「え!?」
ドキッ。
なんて言おう。そう思いながら、柚羽の顔を見るが、聞かなくてもわかるくらいに、明らかに怒ってるいる。
「なんで言わなかったんだよ。」
「言ったら、ヤキモチやくかと思って、言えなかった。」
「ヤキモチ?俺が?」
「だって、今すでに怒ってるし。」
「怒ってないよ。」
愛那の手を少し強く握る。
「ほら。怒ってる。」
柚羽は言い返す事ができなかった。
愛那の家の前に着く。
「じゃあ、また明日な。」
「うん。ホントに、司く・・安君とは、何もないからね。」
――お前が思ってなくても、相手はわかんないんだよ。
「ああ、わかった。」
柚羽は手を離し帰ろうとする。
「あ、まって。」
「ん?」
愛那は周りをキョロキョロと見渡し、んっ♡と目をつむった。
柚羽は、微笑み。
チュッ♡
軽くキスした。
愛那は恥ずかしそうに微笑む。
柚羽も照れる。
「じゃあな。」
「うん。また明日ね♡」
――またキスしちゃった♡どうしよう♡
◇◇◇◇◇
部室で、加藤と知佳が話をしている。
「どうして春川にトスを上げなかったの?何回も上げる機会はあったわよ。」
「角度や、位置的に上げるのが無理でした。」
「あなたの技術なら上げる事ができるわ。」
「紗代や、先輩方なら打てるかもしれませんが、愛那には、まだ無理だと思いました。
せっかく上げたトスをネットにひっかけて終わらされるのは嫌だったんで。」
加藤は少し考える。
「あたしは、春川はかなりの早さで上達してると思う。失敗したとしても、何本も打たせてほしい。」
「・・・・」
「顧問の先生とも話してるけど、次の試合には、あなたと、石川と、今井は交代で出てもらうと思う。あたし達が引退したら、たぶん、あなたがセッターをやる事になると思うから、もう少し、アタッカーと信頼関係を築いてほしい。」
「・・・・はい・・・」
加藤は、うつむく知佳の肩をポンと軽く叩くと、部屋を後にした。
◇◇◇◇
翌日の練習。
愛那、紗代、侑里禾、知佳を含めたメンバーでスパイク練習をしている。
セッターは知佳だ。
――よし!ここで決めて、あたしはできるんだって見せなきゃ!
知佳は愛那にトスを上げる。
――よし!!
愛那は助走をし、思いっきり両手を後ろに振り、高く飛んで――――
パスッ・・・
ボールはゆるくネットに引っかかり、自分の前に落ちた。
――あれ?
「ふん。」
知佳は、次の人にトスを上げる。
タイミングが合わず、ボールは指先に当たった。
「ドンマイ。もう一本打とう。」
紗代は声をかける。
再び愛那の番になるが、
ガチャン!!
今度は手には当たったがネットの真ん中に引っかかった。
加藤は、その様子を気にしていた。
「ヘタくそ。」
知佳がボソッと呟く。
加藤が愛那に声をかけようとした時、
「こんにちは!」
「こんにちは!」
生徒が挨拶をする。
「はい、こんにちは。」
顧問の岡本先生が、シューズを持ち入ってきた。
「集合!」
「仕事が忙しくてなかなか来れなくてすまなかった。」
岡本先生は、新入部員を順番に見る。
「良さそうな子が入ってきたな。」
生徒は再び練習に戻り、スパイク練習を始める。
愛那は何本打っても上手く入らなく、段々と焦りが出て来た。
「入るタイミングが悪い。焦らずに、ボールをよく見て。」
岡本先生が愛那の横に来てアドバイスをする。
「トスがあがって、今!」
愛那は助走をして、思いっきり飛んだ。
ボン!!!
力強い音とともに、ボールはコートの真ん中に打ち付けられた。
「そうそう。そんな感じ。」
「ありがとうございます!」
知佳は面白く無さそうな顔をするが、愛那はタイミングを教えてもらい、どんどんスパイクが入り楽しくなっていった。
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