第11話 打たせてよ!

「春川、あなたも入って。」

「は、はい!」


いつもどおり隅で基礎練をしていた愛那に足立が声をかける。

愛那はイソイソとコートに入る。


「やったじゃん☆」


紗代は親指を立てるが、知佳は、フンッと睨んだ。

セッターのトスを順番に打って行く。


バン!

バン!

バン!


愛那の順番になり、少し緊張したが、安に教えてもらっ事を思い出す。


――助走と一緒に後ろに大きく腕を振り、左手でボールを捉え、そして、上から叩く!!


バン!!


加藤も足立も、球拾いをしていた先輩も、全員が驚いた。


「すごいわね。」


加藤が呟く。

初めてのスパイクは、コートのど真ん中に、勢いよく叩きつけられた。


「あの子、どんだけ飛ぶの?フォームはまだ雑だけど、あのジャンプ力と、肩の柔らかさ、しっかり、教えればスグに使えるんじゃない?」


足立も加藤に声をかける。

加藤は頷いた。

その後も、ひたすら打ち続ける。

たまにタイミングが合わずネットにひっかけたり、コートから出たりもしたが、それでも威力とジャンプ力はすごかった。


「休憩。水分とって。」


紗代が愛那に駆け寄る。


「すごいじゃん!愛那!」

「あれでいいのかな。良くわかんないや。」


2人は汗を拭きながら水分をとる。

愛那はこっそりと隣のコートの柚羽を探す。

柚羽も何本かスパイクを決めていた。

なんとなく唇に目が行ってしまう。


――はっ。いかんいかん。あたしったらっっ!!


ニヤケ顔に気づき、両手で頬を軽く引っ張り周りに気づかれないように誤魔化した。


「たかが数本決めたくらいでうかれないでね。実際はブロックがついたり、動きながらのプレーになるから、あんなに打てるとは限らないから。」


知佳の一言で、周りは凍りつく。


「こわっ。」


同じ1年の今井侑里禾ゆりかが呟く。

身長158センチと小柄だから、レシーブ力は紗代と同じくらい優れていて、かなり俊敏な動きができる子だった。


「気にしなくていいよ。愛那。あんなのただのヒガミだから。」


紗代は愛那を励ます。


「今から、ゲームやるから、みんないつものポジションに入って。それから、世良、今井、石川、あと・・・春川も、2年と交代で入って。世良はセッター、春川は・・・とりあえず打つ専門で。」

「はい!!」

「は、はい!!」


加藤のジャンプフローターからゲームが始まる。

バックレフトがレシーブを弾き、加藤達、スタメンチームに1点が入る。


「あれは取れる球よ。」


ベンチで見ていた知佳が呟く。

加藤の連続サービスエースで、選手交代になる。


「世良、セッターに入って。石川はレフト、今井はバックライトで。」


加藤が言うと、3人は素早くコートに入る。

2年は悔しそうにしていた。


再び加藤のサーブからゲーム再会。

早いサーブだが、ライトバックの侑里禾がやや弾いたが、高くレシーブをあげる。

それをセッターの知佳が素早くボール下に入り


「紗代!!」

「来い来い!!」


奇麗にバックトスでレフトに上げ、紗代が見事に打ち抜き、決まった。


「ナイス。」


紗代と知佳がハイタッチをする。


「侑里禾もナイスカットだよ!」


紗代は侑里禾に声をかける。


「悔しいな。次はちゃんと上げる!」


侑里禾は自分に言い聞かせるように呟いた。


2年がサーブを打つ。

加藤が軽々しくと上げ、足立がトスを上げる。


「C!!」


知佳が叫んだ。


ミドルブロッカーの2年の竹内が入り。

知佳はブロックに飛ぶが、左手第1関節あたりが当たるが、奇麗に決められた。

知佳は左手を見つめる。


「ドンマイ。あれだけ高いと仕方ないよ。」


紗代は知佳の背中に手をやる。


竹内はチーム1の高身長。176センチ。

知佳は168センチ。

身長が高いうえに、相手は2年生。仕方がない事だが、知佳は悔しかった。


――飛ぶタイミングを、もう少し遅らせれば止めれたかも。


知佳の顔つきが変わった。

ベンチでは、愛那が興奮しながらゲームを見ている。


――すごいな。紗代、あんな強いスパイク打つなんて、カッコイイ!!今井さんも、あの身体でキャプテンのサーブきるなんて。

そして・・・ムカつくけど、世良知佳。

あの位置からバックトスを奇麗に上げるなんて・・・ムカつくけど、すっごいムカつくけど!!アイツ、すごいかも!!


再びスタメンチームからのサーブになる。


――よし!!取れる!!


今度は侑里禾は奇麗にセッターにレシーブを上げる。


「A」


知佳が言った頃には、すでに紗代はAクイックに入る体制を取っていた。


「はいよ!!」


紗代は高く飛び、Aクイックを決めた。


「イエーイ!!ナイスアシスト!!」


紗代はハイタッチをする。


「侑里禾、今のワン良かった。」


知佳が言うと、侑里禾は親指を立てた。

スタメンチームでは、新人3人のプレーに驚きの声があがっていた。


「あの子達、入ったばっかよね。いつの間にあんな練習したの?」


足立が言うと、加藤はベンチの愛那を見た。


「春川!レフトに入って!」

「え!?は、はいっ!!」


紗代は愛那をタッチで迎える。


「思いっきり打てばいいよ!」


紗代は声をかける。

愛那がコートに入った事に、柚羽と安も気がついた。

2人は、水分を取りながら愛那を見守る。

知佳のサーブが入り、スタメンチームが攻撃をするが、またしても侑里禾のカットで、知佳がトスを上げる。

愛那は当然レフトの自分にトスが上がると思った・・・が。


「ライト。」


知佳はバックトスで紗代にトスを上げた。

不意を突かれた紗代は、打ち抜く事ができずに、なんとか返すだけとなった。

再びスタメンチームからの攻撃になる。

紗代がスパイクを拾い、転んだ為、紗代にトスを上げる事はできない。

当然、レフトにトスを上げる物として、スタメンチームもレフトをマークしたが、知佳はチャンスボールで2で返してしまった。

これには、紗代や、侑里禾もイラついた。

またしてもスタメンチームからの攻撃になり、加藤からのバックアタックで決められてしまった。


不穏な雰囲気が漂う。


「今のは愛那に上げるべきだよね。」

「あたしもそう思う。」


紗代と侑里禾は、知佳に詰め寄る。


「愛那はまだきちんと打てない。大事な場面でスパイクミスしてもらいたくなかったから。」


知佳は澄ました顔で言う。

愛那は怒りがマックスにきそうだった。












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