第10話 彼氏ができた!

恋愛というものをした事の無い愛那は、柚羽の行動に、どう対応していいのかわからない。

柚羽は、そんな愛那を可愛いく、面白がっていた。けれど、彼女に恋をしていて、真剣に付き合いたいと思っている柚羽にとっては、今の関係がまどろっこしかった。

辺りは薄暗くなり、柚羽は愛那を家まで送った。


「お前の家、すげーな。」


柚羽は春川邸を見渡す。


「そんなにスゴイ?家が大きいの。」


昼間も同じ事を言われた愛那は、面倒くさくて適当にあしらう。


「じゃあ、また明日ね。バイバイ。」

「ちょっと待って。」


門を開けようとした愛那を柚羽は抱き寄せて止める。

愛那は思わず肩をすぼめ息を止めた。

止めたというより、経験した事の無い胸の鼓動の速さで、息ができなかった。

そんな事にはお構いなしに、柚羽は、愛那の耳元で囁く。


「さっきからずっと逃げてる。好きか嫌いかだけ教えてよ。キスしていいのか、ダメなのか、それだけ・・・」


ハァハァ。

胸が苦しくて、呼吸が早くなりそうなのを悟られたくなくて、愛那は必死で口を両手で押さえ、心を落ち着かせる。


――嫌いじゃない・・・たぶん・・・好き。

だけど、なんて言えばいいの?恥ずかしい。

好きって言ったら、キスされちゃうの?

どうやってしたらいいの?わかんないよ。


柚羽は、愛那の肩が固く震えている事に気がつき、捕まえていた肩から右手を離した。

そして、ゆっくりと、諦めたように言った。


「ごめん。もういいよ。悪かった。」


――え?


「明日からは、バレー部の先輩後輩で。でも、練習相手には、いつでもなるから、その時は連絡くれよ。」


――え?待って。


「じゃあな。今日は、付き合ってくれて、ありがとな。」


柚羽は、さっきまでと違い、少し元気の無い声で言うと、振り返り、歩き出した。


――え?これって、あたし、柚羽を振った感じなの?違う。そうじゃないよ。


「柚羽、違うよ!あたし、柚羽の事、好きかもしれない!」


愛那は振り返り、声を振り絞った。

顔がのぼせるのがわかる。


「わかんないけど、柚羽の声聞くと、ドキドキするの。会う約束すると、嬉しくて、楽しみで、少しでも、可愛いって思われたくて、服とか、メイクとか、いつもよりがんばっちゃうの。」


柚羽は、驚いた顔で愛那を見る。


「バレー大好きだけど、柚羽とやる練習は、もっと好きで、あたし、体力あるのに、ドキドキして、すぐ息あがっちゃって、柚羽に褒められると、嬉しくて、笑うと、年上なのに、可愛いとか思っちゃって。あの、あの・・・」

「わかった。わかったよ。」


柚羽も恥ずかしさで耳まで赤くなる。


「それが、返事でいい?」


愛那は首を大きく縦に振った。

柚羽は、照れくさそうに微笑む。


「だけど!」


愛那は言う。


「まだ・・・キスはできない・・・」


真っ赤になり、うつむいて言う愛那に、柚羽は思わず笑ってしまった。


「わかった。急がないから大丈夫。」

「ほ、ほんと?んっ、んんっ」


顔を上げたとたん、柚羽の顔が近づき、キスをした。


「やっぱ無理。こんなに可愛い子目の前にして、お預けは無理。」


愛那は両手で唇を押さえる。


「じゃあな。また明日!」


そういうと、柚羽は立ち去った。


――キス。しちゃった。


愛那は右手で、唇をそっと触わり、柚羽の唇の感触を思い出す。


――いや、どうしよう。キスしちゃった!


ニヤニヤが止まらない。


――あたし、ファーストキスしちゃった!!


愛那は今にも歌い踊りだしそうに舞い上がりながら、家の門を開けた。


◇◇◇◇


「え!?愛那キスした事なかったの!?」


翌日のお弁当の時間、心捺と、快杜は驚く。


「うん、初めて。2人はした事あるの?」

「そりゃあ、まぁ、ねぇ。」


心捺と快杜は顔を見合わす。


「けどさぁ、いくらフランスにいたからって、全くモテなかったわけじゃないだろ?告白とか、された事ないの?」

「離れたとこで、可愛いとか言ってるのが聴こえた事は何回かあるけど、直接言われた事は無かったよ。」


柚羽の顔を思い浮かべながら話すと、ニヤニヤが止まらない。


「はいはい。ごちそうさま。」


快杜はアンパンをかじりながら少しひき気味だ。


「まあでも、付き合い始めって、やっぱり良いよね。これから、「いろんなコト」経験しちゃうわけだし♡キャぁ♡」


心捺は興奮する。


「いろんなコト?」

「快杜の前で言うのも、なんだけど、女の子にとっては、メッチャメチャ大切なコト♡」


心捺は、快杜に、あっち行けと合図をする。

はいはい。と快杜は席を立ち、男友達の輪に入る。

心捺は、愛那に顔を近づけ、小さな声で言う。


「エッチとか♡」


――エ・・・!!!


「そんなスグじゃないかもしれないけど、なんか聞いてると先輩、手が早そうだし、いつきても良いように、準備しといた方がいいよ。」


――なんと!!まだ付き合いだしたとこなのに!もうそんな事まで考えないといけないのか!?


「その時がきたら、なんでも聞いて!教えてあげるから!」


心捺は、わははと笑うが、愛那の香りは破裂しそうなくらい紅潮した。


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