第9話 まだわかりません!
愛那がバレー部に入部して1週間が過ぎた。
帰宅して自分の部屋にいると、安からラインが入る。
―今度の日曜の午前中、あいてる?前に話した、俺の父親がやってるクラブチームに行かない?
愛那は嬉しくなり、すぐに返信する。
―うん!行けるよ!ありがとう!
しばらくすると、返信が届く。
―じゃあ、一緒に行こう。父親の車で迎えに行くから、住所教えて。
愛那は住所を送った。
しばらくすると、今度は柚羽からラインが届いた。
―今度の日曜、あいてる?買い物行きたいから付き合って。
――今度の日曜かぁ。
―午前中は用事があるから、午後なら良いよ。
しばらくすると、また返信が届く。
―了解。じゃあ、1時に公園で待ち合わせな。
愛那はバレーを教えてもらえる楽しみと、柚羽とプライベートで会える楽しみで、日曜が待ち遠しかった。
日曜日になり、愛那は練習に行く準備をする。
「日曜日なのに練習なんて、愛那お嬢さん、頑張りますねぇ。」
「うん。仲良くなった子がね、教えてくれるの。」
「それは良かったですね。お気をつけて。」
「ありがとう。順ちゃん。行ってきます!」
愛那は勢いよく玄関を出た。
「日本の学校にすぐに馴染んでくれて良かった。」
愛那の祖母は安心したように言う。
「ほんとですねぇ。お友達も良い方ばかりみたいで、私も安心しました。」
家政婦の順子さんも安心して愛那を見送った。
「すごい家なんだな。愛那ちゃんの家は。」
安の父親の車に乗ると、安は驚きを隠せずに言った。
「お祖父ちゃんの家なんだけどね。」
「へえー。お祖父ちゃん、何やってる方なの?」
「お医者さん。元お医者さんかな。今はもう辞めてセカンドライフ楽しんでるから。」
「そうなんだ。すごいな。」
「そんなに、すごくないよ。」
車は中学校の駐車場に止まる。
体育館では生徒達がネット張りをしていた。
「おはようございます!」
「おはようございます!」
愛那達が体育館に入ると、生徒達はみんな大声で挨拶をする。
「すごいね、みんな大きい声で。」
「親父は挨拶にはうるさいからね。技術の前に、まずは礼儀が大切だからって、そこは技術よりも厳しく教えてる。」
シューズを履き、ウォーミングアップが終わるとレシーブ練習が始まった。
コーチが低く素早く球出しをし、生徒はひたすら駆け抜けながらレシーブをする練習だ。
「やってみる?」
安に言われ、愛那も混じってやる事になった。
ひたすら走るこの練習は、体力的にキツイが、普段から走っている愛那にとっては、全くキツくなかった。
それどころか、ボールを落とさずに拾う楽しさを感じた。
汗を拭きながら、愛那は中学生と一緒に練習を楽しんだ。
サーブ練習になると、安は愛那にボールを渡す。
「まずはフローターサーブからやってみようか。」
安はお手本を見せる。
「ボールは目線より少し上に軽く投げて、ボールの中心を、押し出すように。」
愛那も真似してみる。
「中心を押し出すように。」
バン!
「おお!いいじゃん!そんな感じ!」
愛那は段々と楽しくなり、ひたすら打ちまくった。
時間は12時を回り、練習は終わった。
「ありがとう。司君。また誘ってね。」
「こちらこそ。また声かけるね。」
愛那は自宅前で降ろしてもらう。
――ヤバっ!もうこんな時間!?急がなきゃ!!
いつもの待ち合わせの公園で、柚羽は愛那を待っている。
「ごめーん!!」
白いTシャツに、スキニーパンツ。シルバーのパンプスに長いストレートの黒髪をなびかせながら、愛那は少し息をきらしながら走ってきた。
「ハァハァ。ごめんね。遅くなっちゃった。」
「ああ、いいよ別に。」
柚羽はプイっとそっぽを向く。
――可愛すぎだろ!!ヤバいだろこれ!!
そっぽを向かれた愛那は不安なる。
――ヤバい。遅れて怒ってるのかな。
はっ!!もしかして汗臭い!?シャワー浴びてきたんだけど、まだ臭いのかなっ!ヤダッ!!
2人はぎこちなく離れて歩き出した。
「買い物って、何買うの?」
「シューズを買い替えたくて。」
――ふーん。
スポーツショップに入り、バレーシューズを見てまわる。
「いろんなのがあるんだね。何を見て選ぶの?」
柚羽はたくさんあるシューズを順番に手に取る。
「軽さとか、クッション性とか。あと値段。」
「へぇ〜。」
買い物を終え、2人はカフェに入った。
外にあるテラス席に座ると、柚羽はアイスコーヒーを飲みながら、足を組む。
「午前中は何やってた?」
「え?午前中?」
カフェオレを飲みながら、愛那は返事に困った。
正直に、安とバレーをやりに行ってたと言ってもいいのだが、少しきまづかった。
「ちょっと、友達と約束があって。」
「そうなんだ。」
柚羽は景色を見ながらアイスコーヒーのカップをカラカラと振る。
愛那も、行き交う人や車を見ながら、気まずさを感じながら、カフェオレを飲む。
「この間の返事、まだ無理?」
「うっっ。」
ゴホゴホ。
この間の返事。
愛那は、忘れてた訳ではないが、あまり考えないようにもしていた。
「俺の事、別に嫌じゃないんだよな?」
「・・・」
愛那は、どうしていいか、わからなかった。
でも、嫌いじゃないのは確かだ。
「嫌だったら、二人っきりで会わないよな。」
「・・・」
確かに、一緒にいると、今まで感じた事の感情が湧き起こってくる。
「なあ。なんか返事してくれない?無言ばっかじゃわからない。」
「―――!!!」
「ごめん。ちょっと声でかかった。」
愛那は顔を赤らめうつむきながら、小さく声に出した。
「柚羽の事は、嫌いじゃ、ない・・・です。
恋とか、わかんないけど・・・一緒にいると、ドキドキするっていうか・・・なんていうか・・・」
柚羽は、少し照れたように、また景色を見た。
「でも・・・付き合うとかは、まだわかんない・・・。もう少し、ハッキリと、柚羽の事が好きってわかるまで、待ってもらえないかな。」
「そういうの、好きっていうんじゃないの?」
「・・・そうなのかな・・・あたし恋とかした事ないから。」
「じゃあ、今から確認していい?」
愛那は身構える。
「な、何を!?」
柚羽はテーブルに身を乗り出し、顔を近づける。
――な、なな、何をするの!?こんな人がいるところで!?
柚羽は愛那の耳もとで囁く。
「愛那にキスしたい。」
――キキ!!キス!?
「ドキドキした?嫌だった?気持ち悪い?」
心臓がバクバクして飛び出しそうだ。
今にも気絶して倒れそうなくらい、愛那は頭に血がのぼった。
その表情を見て、柚羽は楽しんでるように見えた。
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