第8話 ライバル

体育館では、2、3年がスパイク練習をしている。


バン!

バン!


「ナイスー!」

「ナイスー!」


紗代や、知佳、1年生達は球拾いをしながら、先輩のフォームや打つコースを勉強している。

知佳は、キャプテン加藤ひかりのフォームを参考にしていた。


――先輩、なんて奇麗なフォームなんだろ。真っ直ぐ飛んで、腕の振りもムチみたいにしなやか。


愛那は、というと・・・

1人壁に向かってアンダーパスの練習をしていた。

高校で始めた愛那には、少し可哀想だが、仕方がない。


「交代!1年生、打っていいよ。」


加藤が号令をかけると、1年と2、3年がコートチェンジした。

愛那も行こうとするが、


「春川はいい。あなたは基礎をしっかりやって。」


副キャプテンの足立に止められた。


「クスッ」


知佳がそれを聞いて笑う。


――ムカつくー!!!


紗代は、その様子をハラハラして見ていた。


男子コートでも1年生がスパイク練習を始めた。

柚羽は1年生、1人1人のフォームを見る。


バン!!!


「おお!!あいつスゲーな!!」


安がスパイクを決めると、2年が声を上げた。

柚羽は、安のもとに行く。


「いいんだけど、ボールをもう少しだけ前で捉えた方がいいな。」

「はい!ありがとうございます!」


安は嬉しそうに答えた。


「あいつ、かなり良いな、早速次の試合に出れるんじゃねーか?」


2年のリベロ、矢田颯人はやとは言う。


「だな。」


柚羽は答えた。


バン!!


安の打った球がコートを外れ、女子コートに転がって行った。

ボールは愛那の足元に転がる。


「あ、先輩!俺、自分で取りに行きます!」


安は愛那のもとに走る。


「すみません!」


愛那はボールを拾った。


「ありがとう!」


安はボールを受け取る。

愛那は会釈をすると、すぐに基礎練習に戻った。

安は愛那の可愛さに顔がニヤケそうになるのをこらえた。


「安はわざとボールを女子の方に打ったのかしら。」


マネージャーの令実が柚羽にこそっと言う。


「はあ?」

「男バレの選手と女バレの選手の交際、アリね。ドキドキしちゃう♡」


――はあ?


柚羽は、安と、愛那を見た。


練習が終り、ネットを片付けると、安が愛那のもとにかけ寄ってきた。


「キミ、1年だよね。名前は?何組?」

「え?3組。春川・・・です。」

「春川さんか・・・。」


そういうと、お疲れ!と挨拶をし、体育館を出て行った。


――なんだ、あの子。


愛那はポツンと取り残されていた。


帰り道、

柚羽は少しムッとしている。

愛那も1人だけスパイク練習をさせてもらえず、落ち込んでいた。

お互い無言で歩く。


「あのさぁ」

「あのさ、今日も公園で練習したいんだけど、付き合ってもらえない?」


柚羽が口を開くと遮るように、愛那も口を開いた。


「え?ああ、いいけど・・・」

「あたし、こんなに悔しいの初めて!今までイロイロスポーツやってきたけど、どれも、すんなりできるようになって、割と簡単に優勝してきたから、こんなに見下されたり、取り残された事なんて、なかったから。なんか、すっごい悔しい!!」

「あ、ああ・・・」


柚羽の頭の中は、バレーの事より、愛那と安の事でいっぱいだったのが、愛那の頭の中は、そんな事よりバレーの事でいっぱいだったのが安心した。


「愛那は上手くなるよ。背も高いし、運動神経も良いし、やる気もあるし。」

「知佳には負けたくないっ!」

「知佳?」

「うん。あたしと同じくらいの背で、後ろ刈り上げのショートカットで・・・まあまあ可愛い・・・」


柚羽は少し考える。


「ああ!あの気の強そうな子か。」

「そう!その子!」


柚羽はニコッと笑い、愛那に言う。


「大丈夫。可愛さでは、愛那が勝ってる。」


愛那の顔が赤くなる。


「そ、そういうの、いいから!」


スタスタと早足で歩く。


「早くボール取ってきて!公園行くよ!」

「はいはい。」


◇◇◇◇◇◇


翌日の昼休憩。

愛那、心捺、快杜は3人でお弁当を食べていた。


「春川さーん!呼んでるよ。」


クラスメイトの女子が愛那を呼ぶ。

教室の入り口を見ると、安が立っていた。


「愛那、知り合い?」

「男バレの、昨日初めて喋った子。」


愛那はお弁当に軽く蓋をして席を立った。


「やっぱり、あれだけ可愛いと目立つわよねぇ。」

「うん。でも自分に自信のある男じゃないと行けないよなぁ。」


心捺と、快杜は2人の様子を見守った。


「急にごめん。もう弁当食べた?」

「いいけど・・・なに?」

「春川さん、バレー未経験?1人だけ基礎練やってたから。」

「あ、ああ・・・」


愛那は恥ずかしそうに笑った。


「良かったらさ、練習休みの日に、俺の父親がコーチやってる中学生のクラブチームがあるんだけど、そこで場所借りて練習しない?

俺が見てあげるから。」

「え!?ホントに!?」


安は頷く。


「ありがとう!あ、名前と連絡先・・・」


安はスマホを出した。


「俺、安。あんつかさ

「安君ね。」

「司でいいよ。」

「司君・・・あたしは愛那でいいよ。」

「愛那ちゃんね。じゃあ、また連絡するから。」


安は教室に戻って行った。


「なぁにぃ〜。早速デートのお誘い?」


心捺が茶化す。


「違うよ!バレーの練習相手になってくれるって話だよ。」


心捺と、快杜はニヤニヤしながら愛那を見る。


――ほんとに、練習するだけだから。



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