第7話 愛情たっぷり注がれて

柚羽との帰り道、愛那はイライラを隠せないでいた。


「初めての練習どうだった?ついて行けそうか?」

「練習はついて行けそうだけど、早速経験者からの洗礼を受けたっていうか・・・嫌なヤツいたわ。」

「嫌なヤツ?そうなの?」


愛那は無表情で頷く。


「小中とセッターやってたんだって。で、いきなりあたしに、背が高いだけてバレーができると思ったら大間違いとか言ってきた。」

「へえー。こわっ。」


愛那は、柚羽の顔を見て言う。


「あたし、絶対に上手くなって試合に出たい!高校デビューでもできるんだって、アイツを見返したい!」


柚羽も、愛那の顔をじっと見る。


「今から俺、時間あるけど、軽く練習して行く?」


愛那の顔がパァァァと明るくなる。


「うん!やって行く!」

「オッケ。じゃあ家にボール取りに行ってくるから、公園で待ってて。」

「わかった!」


2人は薄暗い公園で街灯の灯りを頼りに基礎練習を始めた。


「レシーブは、しっかりとボールに対して面をつくって、手を振らないで、後ろ足を前に一歩出しながら、前に運ぶような感じで。」


ポーン

ポーン


柚羽はゆっくりと球を出す。


「そうそう。そんな感じ。」


持ち前の運動神経の良さで、数回やっただけで、形になってきた。

球出しは上手になってきたので、柚羽は一緒にパスを始めた。


「あいた!」


オーバーの球が右手の人差し指に変なふうに当たった。


「大丈夫か?」

「うん。大丈夫。」


愛那は笑いながら右手を軽く振る。

その後も、何回も何回も、レシーブ練習を続けた。


「ただいまー。」


玄関を入り、靴を脱いでいると、祖母が心配そうに出迎えた。


「遅いじゃないの。こんな時間までどうしたの?」

「ちょっとバレーの練習してただけだよ。お腹すいた。」


洗面所で手を洗い、部屋着に着替えると、ダイニングチェアに座った。


笑愛えまちゃんいる?」

「いるわよ。自分の部屋に。どうかした?」


愛那は右手の人さを擦りながら言った。


「ちょっとね。」


食事を終えると、愛那は笑愛の部屋をノックした。


「愛那。どうしたの?」


部屋からは愛那の伯母の笑愛がでてきた。

伯母の笑愛は、今年で54歳には観えない程の美魔女で父の病院で、整形外科医として働いている。

これほどの美人で恋人は何人かいたが、いまだ独身を貫いている。

自身が独身で子供が居ないせいか、愛那の事をとても可愛がっている。


「ちょっと指痛めちゃって、見てもらえるかな。」


愛那は人差し指を見せた。


「腫れてないなら、少し筋を痛めただけだと思うから、湿布貼ってあげるわ。」

「ありがとう。」


愛那は、笑愛の部屋で湿布を貼ってもらう。


「バレー始めたんだって?」

「うん。」

笑輝みつきもスポーツが得意で、いろんな事やってたから、愛那も似たのかもね。」

「ねえ、笑愛ちゃん、パパはどうして医者にならなくて、美容師になったの?」


湿布を貼ってもらった愛那は笑愛に尋ねる。


「どうしてかなぁ?よくわかんないけど・・・医大卒業間近になって、急に美容師になりたいって言い出して、父さんとケンカしてたけど・・・でも、母さんが間に入って、丸く収まって美容学校に行ったわね。

笑輝も頑固だから、一度決めたら譲らないから。」

「ふうん。まあ、頑固なのはわかるかな。あたしもママによく、パパに似て頑固だって言われるから。」


笑愛は微笑む。


「見た目は、るいさんにソックリなのにねぇ。涙さんのお母さん、あなたのもう1人のおばあちゃんも、奇麗な方だったわ。」

「おばあちゃん。あたしが5歳の時に亡くなった・・・。たまにしか会えなかったけど、すごく優しかったの、覚えてるよ。

日本に帰ってくると、いつもママとパパと一緒に遊びに行って、いつも笑顔で抱っこしてくれたり、遊んでくれたなぁ。」

「愛那は、優しい人達から、愛情たっぷりもらって、幸せね。」


愛那は、笑愛の部屋の窓から見える夜空を見ながら言った。


「うん。幸せだよ。」


そして愛那の頭の片隅には、無意識に柚羽の姿が浮かんでいた。



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