第5話 可愛い!!

「うん。そう。あたしバレー部に入るから。」

「バレー部?今度はバレーに目覚めたの?」


愛那は母親に学校での出来事を話す。

日本の高校に入る条件として、2日に1度は電話をすると約束しているからだった。


「愛ちゃん、いろんなスポーツに興味を持つけど、すぐに飽きてやめちゃうじゃない。

3年も続けられるの?それにバレーは団体競技よ。協調性のないあなたが・・・大丈夫?」

「大丈夫だって!なんとか、頑張るから!それにね、柚羽が教えてくれるって。あ、前に話したジョギング中に会って名前聞いてきた人ね。バレー部の先輩だったの。」


母親は、心配になる。


「男の子に教えてもらうの?」


母親の心配をよそに、愛那はケロッと答える。


「うん。そうだよ。」

「・・・」

「愛ちゃん、パパには黙っておきなさいよ。ウルサイから。」

「はあい。でも、全然、そんなんじゃないんだけどな。」


愛那はふと時計を見る。


「あ!もう時間だ!切るね!」


愛那は電話を切り、急いで部屋を出た。

もうすぐ柚羽と約束の7時半だ。


公園で、柚羽は1人でスマートウォッチを見ながら立っていた。


「柚羽ー!!」


遠くから愛那の声が聞こえる。

柚羽は、右手を軽く上げた。

2人で並んで走る。


「そういえば、気になってたんだけど、指切りするときに、日本ではって言ってたけど、愛那は外国にいたの?」

「そうだよ。産まれたのは日本だけど、1歳くらいから、ついこの間までフランスにいたよ。両親があっちで仕事してるから。」

「そうなの?スゲーな!」

「バレーがやりたくて、日本の高校を受験したの。岡北はパパの母校だったから受けてみた。」

「へえ。そうなんだぁ。」


柚羽は隣を走る愛那の横顔を見る。


――面白い子だなぁ。


「愛那、彼氏いる?」

「え!?」


愛那は驚いて柚羽を見る。


「い、いい、いないけど。」

「良かった。じゃあ付き合おう。」

「ええ!?」


愛那は足を止める。


「付き合おうって、あたしと柚羽はまだ、知り合ったばっかりで、お互い、何も知らないし・・・」

「これから知っていけばいいだろ?嫌だったら別れればいい。」

「そんな・・・」


愛那は動揺する。


――可愛いな。


「俺は愛那を可愛いと思ってる。愛那は?俺をカッコイイと思わない?」

「いきなり、そんな事言われても・・・」


柚羽は真っ直ぐ愛那を見るが、愛那は柚羽を直視する事はできなかった。

柚羽はクスっと笑った。


「いいよ。すぐじゃなくて、でも、きっと、愛那は、俺の事、好きになるな。」

「な、なんでそんな事!わかんないよ。そんな事!」


愛那は顔を赤らめ走り出した。

柚羽も笑顔で走り出す。


「可愛いな、愛那。」

「かっ、可愛いくないから!」

「可愛いよ。」

「黙って!」


愛那は産まれて初めて面と向かっての告白に、恥ずかしさを隠せなかった。

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