第4話 部活見学

――ああ、可愛いなぁ、あの子。

ホントにバレー部に入ってくるかなぁ。

って、聞いてないけど、彼氏いないよなぁ。

あんだけ可愛いかったら、彼氏いるかもしれないけど・・・ 


柚羽は自宅のリビングでルマリと戯れながら、いろんな事を考える。


――メールくらい聞けばよかったぁ。


スマホを見ながら後悔した。


――まあ、いっか。また会えるだろうし、その時に忘れずに聞こう。


柚羽は学校に行くのが楽しみだった。


◇◇◇◇◇


1年生の部活動見学が始まった。


「愛那、部活入る?」


心捺こなつは配られた部活一覧のプリントを見ながら愛那に聞く。


「もちろん!その為に日本に来たんだから!」

「そっかあ。あたしは、とくにやりたい物無いから帰宅部でいいかなぁ。」

「なにそれ?そういう部活があるの?」


目を丸める愛那に心捺は笑いながら言う。


「ないない。帰宅、おうちに帰るって事。」

「そうなんだぁ。そういう言い方するんだね。」


授業が終り、部活に入部希望の者のみ、残って部活見学をする事になった。


体育館では、じょバレ、だんバレがスパイク練習をしている。

セッターが短く早いトスをあげ、すかさず柚羽が入り、Aクイックを決める。

スパイクを打ちながらも、柚羽は女バレが気になって仕方ない。


「柚羽、何入り口ばっか見てんだよ。そんなに新入部員が気になるのか?」

「は?べつに。」


セッターの2年生、唐田からたれんは言う。

体育館入り口付近が賑やかくなり、ぞろぞろと数人の男女の入部希望者が入ってきた。


――いた!


柚羽は愛那を見つけた。

俄然やる気になった柚羽は、スパイクを打ちまくるが、愛那の視線が別の所にあった。


優しく正確に、無回転のボールをひたすら上げる女バレのセッターに見とれていた。


「おい、すごい可愛い子がいるな、見学者に。」

「おう。スタイルもいいし、モデルか、ハーフか?」


男バレの3年、リベロの成宮なりみやとオポジットの村上が、愛那を見つけて噂する。

女バレでも彼女の姿は注目の的だったが、本人は全く気づいていなかった。

テレビでは男子バレーのエースに一目惚れしたが、実際は多才なトスを上げるセッターに目を奪われた。


「集合!」


現役バレー部員達が1年生の元に集まる。


「こんにちは。キャプテンの加藤です。今から2チームに別れて乱打をするので、見てて下さい。」


身長175センチ、ショートカットの良く似合う小顔に、スラリと伸びた長い手足。

キャプテンの加藤ひかり3年。

愛那の瞳はキラキラと輝いた。


加藤のジャンピングフローターから始まった乱打は、初めて生で高校バレーを見た愛那には、とても刺激的だった。


部活見学の時間が終り、1年達は、先輩方にお礼を言い、体育館を後にした。


――すごいなぁ。やっぱり、バレーやりたい!


「愛那!」


体育館を出てすぐに、後ろから呼び止められる。振り返ると、柚羽がいた。


「柚羽!いたんだ!」


――いたんだって・・・・


柚羽は一瞬顔がひきつる。

愛那と親しそうにする柚羽に、男子部員達が羨ましがる。


「今日もジョギングするのか?」

「うん。するよ。」

「じゃあ、俺も行こうかな。」

「ホントに?じゃあ、7時半に公園で待ち合わせね。」

「わかった。」


愛那は小指を出した。

柚羽も恥ずかしながら小指を出す。


「じゃあ、また後でね!バイバーイ!」


愛那は笑顔で手を振って体育館を後にした。

柚羽も笑顔で手を振る。


「おいおい、なんだ?柚羽、あの子と付き合ってるのか?」


成宮と村上が羨ましそうに言う。


「違いますよ。」


柚羽はまんざらでも無い顔をする。


「柚羽!練習中は、練習に集中して下さい!」


令実が鬼の形相で立っている。


「はいはい。わかりましたよ。」


柚羽はため息をついた。







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