第2話 キミの名は

爽やかな朝の光がカーテンの隙間から射し込む。

キッチンからは、トーストの香りが漂い、目玉焼き、トマトとレタスのサラダとブルーベリーのヨーグルト、祖母の手作りオレンジジュースがテーブルに並べられている。


「おはよう。ばあば、順ちゃん。」

「おはようございます。愛那お嬢さん。」

「おはよう。愛ちゃん、先に顔洗って来なさい。」

「はぁい。」


愛那は祖母に言われたとおり、顔を洗い、席に着いた。

家政婦の順ちゎんが、トーストを愛那のまえに置いてくれた。


「ありがとう。順ちゃん。じいじと笑愛ちゃんは?」

「じいじは今日はゴルフに出かけてて、笑愛は、もう少ししたら帰ってくるんじゃないかしら。」

「そうなんだ。いただきまーす!」


愛那はトーストにかぶりつく。


「愛那お嬢さん、今日から高校生ですね。お一人で不安じゃないですか?」

「ん~~少し。でも、なんとかなるでしょ。大丈夫!」


愛那は目玉焼きを食べながら親指をたてた。


「行ってきます!」


制服に着替え、愛那は祖父母に買ってもらったロードバイクに乗って学校に向かった。


春の風が心地良い、気持ちの良い朝だ。

愛那は長い髪をなびかせ、自転車をこいだ。


学校に着き、愛那は自分のクラスに向かう。


「ねぇ見て。あの子、すごい可愛い。」

「スタイルいいなぁ。羨ましい。」

「付き合いてぇなぁ。」


すれ違う生徒達からの声が聞こえたが、愛那は全く興味が無かった。

容姿は親から貰ったもので、自分が努力したものではない。小さい頃から容姿を褒められてきたが、自分の実力ではないので感心が無かった。


教室に着き、席に座る。


「春川さん、あたし、橋川心捺こなつよろしくね。」


隣の席の心捺が話しかけてきた。


「よろしく。あたし、愛那でいいよ。」

「愛那。じゃあ、あたしも心捺で。」


心捺は160センチくらいのショートカットの可愛らしい子だ。


「愛那は、どこの中学だったの?」

「あたしは、フランス。親がフランスで働いてるから、小さい時からずっとフランスにいたんだ。」

「フランス!?すごーい!!じゃあ、フランス語とか話せるの!?」

「多少はね。」


後ろの席の男子も会話に入ってきた。


「すごいな。俺、日比野快杜かいと春川は、ハーフ?」


快杜は黒縁メガネに色黒のイケメンだ。


「ハーフじゃない。」


この手の質問は面倒で苦手だった。


◇◇◇◇◇


2年生のクラスでは、愛那は、噂の的になっていた。


柚羽ゆずはお前知ってる?新1年生に超可愛い子が入ってきたの。」

「マジで?どんな子?」


藍田柚羽。身長190センチ。バレー部のエースだ。


「なんか、色白で背が170くらいありそうな、モデルみたいなスタイルで、顔は目がパッチリして、人形みたいな。超可愛い子。」

「へぇー、マジで?見に行くか!」


柚羽は友達と教室を出ようとする。


「ちょっと待ちなさいよ!どこいくのよ!」


クラスメイトの女子が呼び止める。


「はぁ。残念。」

「何が残念なのよ!誰を見に行くつもりよ!」


柚羽はため息をつく。


「1年の可愛い子。」


クラスメイトの女子、小鳥遊たかなし令実れみが膨れた顔をする。


「なによそれ。」

「関係ないだろ。令実には。」


柚羽は教室に戻り、自分の席に座る。


「関係なくないわよ。男バレのマネージャーとして。」

「はあ?そんなの関係ねぇじゃん。」


間に入って柚羽の友達、戸田淳太がなだめる。


「まあまあ、柚羽、また今度にしようぜ。」


柚羽は、つまらなさそうな顔をした。


――あの子、可愛いかったなぁ。


先日コンビニの帰りに見た女の子(愛那とは知らず)に一目惚れした柚羽は、彼女の事が気になっていた。


◇◇◇◇◇


その日の夜、愛那は祖父母と父の姉の笑愛に学校での出来事を話した。


「楽しそうで良かった。笑輝みつきもさ、毎日メールしてくるの。愛那はどうだって。子離れしてないから。」


笑愛は笑いながら言う。


「パパは厳しいけど、心配性なんだよね。ママは優しいけど、そういうとこは、あんまり心配しないみたい。」


夕飯のお刺身を頬張りながら愛那は言う。


「パパとママは仲良くやってるか?」

「うん。もうメッチャ仲良し!よくまあ、あんなにベタベタできるなってくらい、お互いいっつもくっていてるよ。だけど、くっだらない事で喧嘩もよくしてるけどね。

だいたいパパがくだらない事でスネて、ママがキレてる。」

「そうか、仲良くやってるなら良かった。」


食事が終わると、愛那は日課のジョギングに出かけた。

小さい頃から、夜になると父と一緒にジョギングをしていた愛那は、大きくなってからも、ジョギングが日課になっていた。

しばらく走ると子犬を連れた柚羽を見かけた。

愛那は子犬を見るなり声をかけた。


「可愛い!!」


柚羽は驚いて振り返る。


「あっ!!」


そこには一目惚れした女の子が立っている。


――この間の可愛い子!!


「名前は?」

「え、あ、ルマリ。」

「ルマリ。かわいいね!」


愛那はシュナウザーのルマリに手を出す。


「名前は?キミの。」


柚羽は思わず聞いた。


「あたしの名前?」


愛那は少し驚いたが、スグに笑顔で答えた。


「春川。」

「下の名前は?」

「愛那。あなたは?」

「俺は、藍田柚羽。」


愛那は立ち上がる。


「柚羽。かっこいい名前だね!」


柚羽はドキドキする。


「じゃあね、柚羽!ルマリ!」


愛那は再び走り出した。


――かっこいい・・・


柚羽は心の中でガッツポーズをした。

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