幕間Ⅰ
一日目
病院に、或る子が運ばれてきた。
血みどろだった。
地面に殴打したようで、痛そうだ。
でも、顔はとても綺麗で、傷一つ無かった。
その子、すぐに目を覚ました。
僕の部下とその相棒が彼に少し取り調べをしたあと、すぐに帰って、「死ぬの、時間の問題かもしれないっす」と、目を伏せながら言っていた。部下の眉間には、皺がよっていたように見えた。
部下が去って少し、僕は綺麗な病室で小説を読んでいる少し休憩の時間が取れた。まあこの子の監視をしなくてはならないから、実質常に仕事だけれど。
点滴と、包帯だらけのその子が僕を見つめていた。
『どうしたんだい?』
僕はそう問いかける。
「…そら、そ、蒼空…は」
少し、声が潰れていた。
柊 蒼空とは、彼と心中した子。
彼の下敷きになっていた子。
半分くらい原型はとどめていなかった。
即死だ。
『死んだよ。即死だ』
率直に、短く、そう言う
「ぁ…そう、…ですか」
喪失したような顔で、彼はそういった。
可哀想だ。
せっかく、心中しようとしたのに。
…まあ、蒼空さんが引っ張って落としただけだけれども。
「…今日は、何月何日…ですか?」
それ、最初に聞く質問じゃないかい…?
『今日は、10月の…5日だ。それがどうしたんだい?目を覚ました時期に指定があった方が良かったのかい?』
「いや、そんなこと、は。ただ、…次の日に、すぐ、…目覚めるとは、だって、蒼空は、即死だった…のに」
『一理あるかもね。けれども、君も大分危なかったのだよ?…最近の医療技術は凄いからねえ、ささっと回復してしまったけれど』
「…そうですか」
会話が途切れる。
彼は、なにも言わなくなった。
窓の外、少し雲って、空が見えない。
今日は晴れの予報だったのだけど。
彼はただ、空の壁をを見つめる。
なにもないのに。
なにかを思い出すように。
また、虚像を壁に写し出すように。
僕はまた、小説を読む。
慈愛なる主人公の救済劇だ。
彼のことも、…この主人公が救ってくれたら、よかったのだろうね。
どうか、彼を救ってくれたまえよ。
…なんて、君に重荷を背負わせ過ぎだね。ごめんね。
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