1969年冬 ドラフト会議 年俸交渉 春季キャンプ
さて、シーズンが終わった事で正式に球団名が京都ゲームズになり、来年度は本西監督代行が監督となり、ヘッドコーチにシュトロハイムという体制を固めた。
そして行われるのはドラフト会議である。
球団側の調査を元にドラフトの方針を決める会議が行われ、本西は
「投手、野手共に層が薄い。人員人数的にもだ!」
と言った。
というのも他の球団が約60名、球団職員の囲い込みや練習生(テスト生)として囲い込みを行い、実際には70名から80名の人員が野球選手として過ごしていた。
しかし、タクシーズは金銭不足から60名の支配下登録を割り、48人の支配下登録と2名のテスト生の合計50名を保有という状況であり、2軍の試合に支障ができるくらい人数が割り込んでしまっていた。
新球団社長の五条は新球場建設をしているが、スポンサー達から優勝祝として纏まった資金を広告費として導入してくれることが決まっていたので、今年は12名ほどの指名をすることができると話す。
ではどんな選手が欲しいかという話になり、投手の頭数が足りてないので投手を多めに欲しく、また受ける捕手も足りてないので2名から3名欲しいとし、残りを内野手2名(主にサード)と外野と決められた。
シュトロハイムは前年社会人ドラフトで成功したので味を占めるのは危険と言い、高校生素材型を2から4年かけて育成するほうが良いと提言。
育成能力に定評がある本西監督が長期政権になるかどうかでドラフト戦略が変わってくるが、フロント側は数年安定してAクラス、欲を言えば優勝を複数年できる黄金期を本西監督に作ってもらいたいと思っており、とりあえず吉田前監督の任期である残り2年は引き継いでもらうことになったらしい。
そう話されたので高校生中心に捕手は大学生と社会人から取るドラフト戦略が決まった。
ちなみにだが前年のドラフト予算から5倍に予算が増えていたりもする。
ドラフト会議が始まり、ヘッドコーチなのでドラフト会議にシュトロハイムも正装をして参加した。
各球団の社長や監督に挨拶を行い、テーブルに座る。
ちなみにこの頃のドラフトは1巡目はウェーバー式と呼ばれるシーズン下位の球団から指名するやり方で、2巡目以降は指名順をくじ引きで決めるというやり方であった為に、1位指名以外の下位球団の優遇が無く、上位球団がくじ次第では常に優位を取れる仕組みになっていた。
勿論抗議の声が上がっていたが、パ・リーグの金満球団はこれを封殺し、自球団が有利になるように工作を行っていた。
そもそも金満球団にとってドラフト制度そのものが猛反対なのに制定されてしまったので、この時期はどうやってドラフトの裏を探すのかの方が熱心である。
今回京都ゲームズ第一号として選ばれた1巡目指名選手は高雄文雄選手であった。
左投げの最速143キロを投げる投手で、抜群のコントロールが武器であり、四国の強豪校のエースピッチャーであった。
うちは特に波乱はなかったのだが、東京ナインズが事前に新聞で指名していた選手を他の球団が強行指名して交渉権を奪われるという事態が発生。
これには東京ナインズのオーナーが大激怒、ドンドンとテーブルを叩いて悔しさを滲ませていた。
『おっかねー』
シュトロハイムは他人事である。
昨年が豊作過ぎて、この年は主力になりうる選手もいたが、シュトロハイムや昨年定着したポジションの選手と被っていたため指名を見送った。
結局12名中投手5人、捕手4人を指名して今回のドラフト会議は終わる。
ただ、この中にダイヤの原石が眠っていたことをシュトロハイムは知らなかった。
と、ドラフトと同時にドラフト外入団テストも行われ、5名の選手が合格するのだが。
「モンティナさんモンティナさんモンティナさん」
シュトロハイムに魅入られてしまった男が1人···一保堂剣士
元々京都タクシーズの熱心なファンであり、遊撃手をしていた選手であったが、シュトロハイム加入によりシュトロハイムが主力の間は遊撃手になれないと見切りを付けて、三塁手(サード)にコンバート、高い身体能力と遊撃手で身に着けた高い守備力をテストで見せつけ、合格するのだが···シュトロハイムを神と崇拝する程の愛を見せていた。
球団の名前が変わったことやサードが比較的手薄と判断し、夢を叶えるために社会人で誘われていたチームを蹴ってテストを受けたのであった。
まだ高校生だったために台頭するのは今しばらく後がであるが、シュトロハイムの懐刀、狂人、狂信者と言われる選手が入団するのであった。
さて、契約交渉の場に移る。
球界全体でシュトロハイムの年俸には注目されていた。
3年連続野手四冠(五冠)という前人未到の成績を残したのだ。
500万から幾ら上がるのか···低ければ強奪してやると東京とか大阪辺りから間接的な接触がされるくらいに···
「じゃ、始めるか」
『はい』
「3000万でどうだ」
『うーん、高い』
「は?」
『2000万3年契約でどうでしょう?』
まさかの減額要求に五条球団社長は度肝を抜かれていたが、減らした1000万円で3Aとか海外から投手を引っ張ってきて欲しいと頼んだ。
「そうは言ってもなぁ···実は」
五条社長が言うにはタクシーズ関係者はシュトロハイムの成功に味をしめたのかヨーロッパから選手を探すことを探しまくったが、いい選手が見つからないらしい。
そりゃそうだ。
イタリアとオランダ以外は野球後進国である。
南米から連れてきた方が良いと心底思う。
とりあえず中南米やメキシコ辺りから探せば見つかるだろ。
とシュトロハイムが言ったらまさかのオーストラリアから連れてくるとは思わなかったが···
ちなみに宮永が1000万、西園寺が900万、園城寺が日本シリーズの活躍で1300万であり、赤羽が850万、大星が550万と前年据え置きが殆どだったのにレギュラー陣はほぼ倍額。
全体年俸は3.5倍に増額され、皆一発サインでホクホク顔であった。
まぁ金が使える時間がほぼ無い。
本西監督は秋季キャンプが無かったのだからと今年も正月返上で合同練習を開催。
練習量は凄まじく、オフシーズンに週6練習って···
休みの日は誰も動けずに寮で皆死んでいた。
「夜の街に行けねぇ···」
「さ、酒のんで二日酔いになろうものなら···練習で死ぬ」
こんなに練習したら痩せそうであるが
「食うのもトレーニング」
と本西監督はオフシーズンの間に食事ノルマを決めて食わせまくった。
で、ウェイトトレーニングもしていたことで筋肉軍団が誕生。
皆新しいユニホームがパンパンにみえる筋肉で全身を固めた素晴らしい肉体を手に入れていた。
投手陣は特に凄くオフシーズン中に平均球速が149キロまで伸び、宮永、園城寺、鈴原、堀田が150超えの直球を連発。
特にアンダースローながら水野が147キロ出す化け物っぷり。
斜め下から浮き上がるような直球はまず打てない。
直球が上がればコントロールが乱れるかと言うとそうでもなく、地獄の走り込みから強靭な下半身が完成。
下半身や軸が強化されるとコントロールも安定した。
ただシュトロハイムが過度の投げ込みを禁止。
これにより肩の消耗を最小限にしたのも良かったか、地獄の練習でも投手陣は誰も故障しなかった。
投手陣は···野手陣は京都野戦病院開院。
まずサードの染岡が故障。
次にライトの増田も故障。(しかもアキレス腱断裂により選手生命喪失)
他1.5軍と言える選手達の故障が相次いだ。
幸い増田選手以外は軽傷であり、春季キャンプには間に合った···間に合ってしまった。
春季キャンプはさらなる地獄が待っており、選手達は早くシーズンを開幕してくれと願うのであった。
シュトロハイムが1000万減らして連れてきたたオーストラリア人···ヴィリアム·シュナイダー。
年俸200万で連れてきた22歳の助っ人外国人で、春季キャンプから合流するとサイドスローで155キロを連発。
コントロールもキャッチャーの構えた所にビシバシ投げるし、一番凄まじいのはスライダー。
外角に曲がるスライダーはデットボールゾーンからボールまで曲がるから恐ろしい。
そしてナチュラルにシュートするストレート、ツーシムとチェンジアップを武器に野球界に乗り込んできたのだ。
シュトロハイムだけは普通にヒットにするが、他の選手はまず打てない。
懸念点がスタミナ不足で80球を超えると途端に球速が落ちるのだが、必勝の継投策ことHSSが居るので問題視されなかった。
また絶好調だと投げ終えると同時に左に移動するのだが、4メートル近く移動するのだ。
マウンドから居なくなるのでそのままセンター方向にゴロが転がるとピッチャー前でも抜けてしまうのだが、ショートが球界の至宝シュトロハイムである。
普通に補球してアウトにするのでシュトロハイムと相性が良く、先発5枚目は南半球から来た開拓者ことシュナイダーが収まる。
春季キャンプで中継ぎの整備が更に進み、左のワンポイントリリースの多田、大差時のロングリリーフの延宝、便利屋の東宮、火消しの笹木とシュトロハイムが現代で必要とされた役割別投手を開拓。
故障した増田の空いたライトは松平が埋め、センターは打撃、走力に磨きがかかった酒井が埋めた。
特に1軍と2軍の上げ下げに規約が無かった時代であるが、(テスト生は支配下にする必要がある)30人を1軍、残りを2軍とし、投手は先発6人中継ぎ抑え含めて8名、残り16人を野手とし、うちキャッチャーは壁役を含めて4名、残りの12名のうち7名(キャッチャーと投手を除く)をレギュラー陣、守備固め2人、代打要員2人、代走要員1人と役割を固定した。
春季キャンプでシュトロハイムは役割を整備し、さらなる京都ゲームズを進化させていたが···
この時、黒い霧がナ・リーグを覆わんと蠢いていた。
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