1970年 黒い霧
実は昨シーズン途中(1969年シーズン時)の10月に新聞紙が北海道モンスターズの選手が暴力団と結託し、八百長及び野球賭博に手を出していたことがすっぱ抜かれた。
普通ならその該当選手の首を切って終わりだ、これがナ・リーグ全体を巻き込む大騒動が勃発する。
そもそも何故新聞が嗅ぎつけたかというと、該当選手が夜の街で給料とは見合わないほどキャバクラ等で金を使っているから何か裏があると情報が入り、それを元に色々探りを入れたのだ。
例えばこれが京都ゲームズの選手達みたいに投資ブームで稼いだ金を使っているのであればプロ野球選手の副業とかの見出しで小さくコラムを書く程度で終わったのだが、記者が調べれば調べるほど裏が出てくる。
更に裏付けは同球団に所属していた外国人選手によるリーク情報で確定し、該当選手及び球団の不祥事として記事を書いた。
ただ該当選手が逃亡してしまい、球団と警察、記者達が捜査を行うと、春季キャンプ中に発見され、恐ろしい事を口にし始めた。
「やっていたのは俺だけじゃねぇぜ。俺と同じ球団の選手やナ・リーグの他球団の選手もやっていたぜ」
と記者や球団関係者の前で語り始める。
まず暴力団と直接やり取りをし、金銭を受け取ったり指示を受けて動いていた元締めが4名。
その元締めの補佐をしたり、球団内部での金銭を渡したりするのが8名、そして指示に従い金銭を受け取っていた者が数十名。
ナ・リーグで加担していないと明言されたのは岐阜ナイツと長崎スターズのみで、岐阜ナイツは2つ前の監督が軍隊式の絶対的な独裁でチームで怪しい人物を撲滅していた事や内部分裂で八百長をしなくても最下位に沈んだ為に関与しなかったためらしく、長崎スターズは物理的に距離が遠く、野球賭博に適していなかった為に除外された。
京都ゲームズは前身の京都タクシーズ時代に該当選手が解雇され、更に親会社の上役が野球賭博に関与していた事が暴露されたが、親会社が変わっていたこと、事前に該当選手を解雇していた事で関与していた球団の中ではダメージは最小限に留まった。
しかし他3球団は重傷及び致命傷であった。
当事者であった北海道モンスターズはエースの池田選手は守ることができたものの、怪物打線と言われたレギュラー陣とそれを支えていた投手陣が軒並み汚染されてしまっており、12名が球界永久追放もしくは無期限の試合出場禁止処分が下された。
このチームの黒いイメージを払拭するため、功労者であった真皿選手を強制引退させて監督に置いたが、主力12名が抜けた穴は深刻で、数年間は再起不能の大ダメージ及び、親会社が球団経営への意欲を消失。
今シーズン限りでの撤退を決めることになる。
次に山口ホエールズと新潟ビートルズも十数名に及ぶ処分選手が発生し、監督やコーチ陣が責任を取り辞職。
春季キャンプ中の組閣になり、チーム全体がガタガタになり、今年度の優勝どころかAクラス争いも厳しいと言わざるえなかった。
そしてこれはナ・リーグ全体へのダメージに発展。
元々パ・リーグに人気で劣り、客数も減少傾向であったが、この件でナ・リーグ人気はほぼ壊滅。
来場者数が多くの球団で半数以下に落ち込み、収益が見込めなくなり、親会社の撤退が相次ぎ、球団存続の危機どころかナ・リーグを解散して、パ・リーグとの再統一をしたほうが良いのではないかと言う話にまで発展する。
勿論シュトロハイムも巻き込まれた。
これまで異次元の成績を残し続けたシュトロハイムは実は八百長によって成績をつり上げていたのではないかと疑問を持たれたのだ。
勿論球団やマスコミが幾ら探してもシュトロハイムから八百長行為や裏社会との繋がりは出てこない。
それどころか土地転がしや株で球団から支払われる年俸の十倍近くの資産を保有していることが発覚し、コインランドリー事業の成功も合わせてシュトロハイム超人伝説が更に増えてしまう事態になっていた。
そのためナ・リーグでは選手の調査をするためオープン戦が開催不可能となり、京都ゲームズでも親会社が変わって早々に収益や広告効果が見込めるのか不安になるスポンサーが続出した。
しかも新球場ができるまでは西京極野球場を代用球場として使うしか無く、集客に疑問を持たれていたのだ。
これに対してシュトロハイムは直ぐに手を打った。
ファンクラブの創設である。
年会費毎にグレードを分けて、球場内の選手とコミュニケーションを取ったり、選手のサイン入りユニホームやバット、ボールの提供、選手との食事会やパーティーを主催して直接的な繋がりを持てる場を作るのはどうかと提案した。
また新球場が建設されれば指定席を設ける事でファンクラブ会員の優先席を設置したり、招待券を贈ることで試合に来てもらえるのではないかと提案を行った。
京都府民は黒い霧最中であるが、球団側が親会社と決別し、該当選手は解雇処分にしていたために今年こその日本一の為に協力してくれた。
黒い霧によりチームの監視体制の強化もしなければならない。
本西監督は統率力に優れているが、選手の中にもリーダーを決めて運営していく必要があると感じられた。
シュトロハイムはヘッドコーチなので除外となるが、キャプテンと投手リーダー、野手リーダーをそれぞれ決めて選手の気持ちを汲み取れる組織を作らなけばならないとシュトロハイムが提言し、キャプテンは捕手の安田が、野手リーダーは赤羽、投手リーダーは惣流院がそれぞれ配置されて組織力を強化。
京都ゲームズ初年度を戦う為にチームは団結するのだった。
ペナント開始前の下馬評は1強1普4弱であり、主力にダメージが無かった昨年王者の京都ゲームズがこの状態のナ・リーグは優勝するだろうと有識者たちは口を揃えて言い、注目は何勝するかであった。
昨年よりも成長していれば110勝も目指せるのではないかと話され、他チームが弱体化したことにより相対的に強さが浮き彫りになった。
恐ろしいのはシュトロハイムが居なければ京都タクシーズの身売りに耐えられずに新しい親会社が現れず、良くて球団解散、悪ければ八百長がこちらでも蔓延し、球団が死滅する可能性もあったのだ。
1選手がここまで影響を与えることは珍しいが、京都ゲームズはシュトロハイムの球団とも言われるようになっていく。
そしてこの年から恐ろしいのは客を呼ぶために敬遠を迂闊にできなくなった点だ。
塩試合をすれば更に人気が低迷するので、ホームランが飛び出すシュトロハイムと勝負を避けるのが興行的にできなくなり、シュトロハイムは更にホームランマシーンへとなっていくのである。
後世でシュトロハイムパワーフォルムとかとも言われる。
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