1969年秋 初リーグ優勝 日本シリーズ1
親会社が無事に決まったという報告は選手達を安心させる材料として十分であり、本西監督は
「だからといって気を緩めるな! 新しい球団になるということは査定もリセットされるってことだ! 低い年俸にならないためにも、そして京都のファンの為にも後半戦勝ち続けなければならない!!」
と選手を激励。
選手としても移動で普通列車(グリーン車ではない)だったり、夜間の移動では夜行列車の床に新聞を敷いて寝るといった苦行とも言える貧乏球団の悲しみから脱出するために、新しいスポンサーがしっかりお金を支払ってくれるように、応援してくれる京都府民のために···
様々な気持ちで夏場の試合に挑んでいった。
シュトロハイムは今季も前半戦で50近くの四球をされていたが、他の選手が打ちまくったので四球をする余裕が他のチームは無くなっていた。
将軍打線の一番槍である赤羽が後半戦から更にギアを上げて出塁率が4割を超えると、2番争いに食い込んだ松平と酒井が繋ぎ、3番の井伊、4番シュトロハイム、5番大星、6番の安田と三好と恐怖の打線を構築。
7番の増田と8番染岡も十分な働きをするものの、染岡は後半戦でサードベンチ付近のフライを捕るためにダイビングキャッチをした際に負傷し、2ヶ月間出場できなくなり、代わりに出てきた三雲選手が穴を埋め、独走しながら9月に突入。
特に9月は宮永、西園寺、園城寺、水野の4連続完封勝利で始まり、4日間の休みを貰えたHSSこと堀田、惣流院、鈴原の必勝の継投策が5試合連続で機能。
1敗を挟んでそこから11連勝で今季最多の連勝で更に勝利を増やし、最終戦でも勝利を収め、130試合中101勝27敗2引き分けで勝利.789と異次元の成績を残して勝利。
宮永25勝、西園寺22勝、園城寺20勝、水野23勝と投手では20勝カルテットが完成。
2位に圧倒的な差を付けて優勝を勝ち取った。
9月頭には優勝が決定し、その時にも本西監督代行が胴上げされて宙を舞ったが、その時初優勝で胴上げが初めてだった選手達は胴上げの際に服を掴んで高く飛びすぎない様にするというのを知らずに胴上げが始まってしまい、本西監督は3メートル以上高く投げ出され、あわや大惨事になるという珍事が発生したりもした。
また感極まったファンが球場に乱入し、シュトロハイムが大声で球団歌を歌い出した事をきっかけに、観客達も球場内で肩を組んで球団歌を熱唱するという事も発生。
その時の優勝インタビューで本西監督代行は
「選手が諦めなかったからや、球団消滅の危機だろうが諦めんと何かが起こる。それが今日までの結果や!」
と熱弁。
選手代表としてシュトロハイムもお立ち台に登らされ
『京都の皆さん最高です!』
と言った事で球場内でそれを聞いていたファンの歓声で地響きがするくらい盛り上がった。
プルス・ウルトラと並びシュトロハイムの名言として京都府民の記憶に刻まれたシュトロハイムは京都府議会で作られた名誉京都府民という称号を後日贈られ、京都の伝説となった。
こうしてナ・リーグを制した京都タクシーズ(まだ改名前の為)は、最終年にして初の日本シリーズに出場した。
相手はV5を狙う東京ナインズこと東京軍団であり、将軍打線から京都は京都幕府と言われ、東京軍団と京都幕府の戊辰戦争と言われた。
注目はシュトロハイム対長尾、大玉のON砲で、彼らによる乱打戦を期待されていた。
勿論頂上決戦で敬遠等と言う野暮な事は両軍共に行わないことを暗黙のルールとし、全力の殴り合いが行われることが確定していた。
第1戦は京都タクシーズの本拠地船岡山球場で行われ、関西のテレビ局が多数入り、カメラの数が圧倒的に多いシーズンであった。
しかも大阪万博前ということで関西周辺の交通網が整備され、大阪の空港や新幹線を経由して京都入りしやすいようになっていた。
そんな大事な戦い、京都タクシーズの先発はテスト生から今シーズン最多勝に輝いた宮永。
対する東京ナインズはエースの郡道を投入。
試合は初回から動く。
「かぁ! 手元で球がぐにゃぐにゃ動くぞ! オラ、ワクワクすっぞ」
長尾選手が他チームでは魔球と恐れられ、凡打の山を築いてきたツーシームをジャストミートしてバックスクリーン前に叩き込んだ。
1回から東京ナインズが先制。
ただ負けない京都タクシーズは2回裏にシュトロハイムが推定160メートルの特大ホームランを放ち試合を振り出しに戻す。
次に試合が動いたのは8回、プロ通算400本塁打を今年達成していた大玉がランナーが2人いる場面で、宮永が放ったスプリットが抜けて棒球になったのを見逃さずにスタンドに叩き込んだ。
スリーランホームランとなり、誰もが試合は決まったと思った。
しかし、怪我から復帰した8番の染岡がエラーにより出塁すると、代走で酒井、代打に霜ケ原を投入、霜ケ原は外野のレギュラー争いに負け、前のシーズンより代打及び守備要員として控えていたが、本西監督代行はここで霜ケ原を投入した。
酒井は自慢の俊足で盗塁を狙うが、東京ナインズのエース郡道は球界初のクイック投球術を独自にやっていた人物であり、塁に選手が居ようが居まいがクイック投法に似た投球をする為に、迂闊に酒井も走ることができなかった。
しかも相手キャッチャーは森本選手で、彼の盗塁阻止率は投手との阿吽の呼吸で高く、盗塁の抑止となっていた。
本西はここで勝負に出る。
スタートしたのは酒井、だがやや遅れたスタートである。
郡道と森本は刺せると確信するが、霜ケ原がフルスイング。
当たったボールはボテボテのサードゴロになる。
「「ヒット・エンド・ラン!?」」
この場面で奇策を用いたことに驚きつつも、森本は直ぐに打球を捕球するとファーストに投げる。
ファーストはアウトであったが、酒井は二塁を回り、三塁を目指していた。
ファーストの大玉は慌ててサードに投げるが、送球が乱れて酒井はセーフとなる。
1アウト3塁。
打席にはナ・リーグ打率2位の安打製造機である赤羽。
その初球から仕掛けた。
スクイズである。
郡道は投球モーション途中で指先で投げる位置を変える。
しかし赤羽が横っ飛びをしながらバットにボールを当ててフェアゾーンにボールが転がる。
その間にホームに突入した酒井は役割を全うし、これで1点を返す。
赤羽はアウトになったが、これで4対2と差を縮める。
続く2番の松平はアウトになったが、次の回に恐怖のクリーンナップと激突することとなる。
9回の守備はサードに水口(控えの内野手、サードとファーストができる)、投手には鈴原が入る。
鈴原は球界最速を更新する155キロの直球と80センチ曲がる驚異のスライダー、そしてチェンジアップを駆使して10球で東京ナインズの打者を制圧。
最終回、最低2点取らなければ負ける場面で3番井伊。
初球からフルスイング。
郡道も負けておらず底力で力投する。
フルカウントから投げられたボールは
「ファーボール」
わずかに外に外れたのを見送り四球となる。
そして対面するは球界最強打者···モンティナ·フォン·シュトロハイム。
四隅かつストライクゾーンギリギリを狙い、変化球を織り交ぜながら必死に郡道は揺さぶりをかけるが、シュトロハイムは全く振らない。
手を出さない。
平行カウント(2ストライク2ボール)に投げられたのは、三振を取るために投げられた内角高めのストレート。
僅かにボール球であったが、シュトロハイムは手を出した。
バキ
愛用していたバットが折れ、折れたバットは内野の頭上を超えて、外野手前に落ちる。
打球の方は外野フェンスに直撃し、外野の芝を転がっていた。
シュトロハイムは全力で走り、井伊も懸命に走るが、打球が速すぎて素早く内野に帰ってきてしまった為に2塁で井伊はストップ。
ノーアウト1.2塁。
この絶好のチャンスにバッター5番大星。
ただ郡道が意地を見せつけて三振。
続くは巧打の捕手三好。
配球を読んで狙っていたのか、3球目の変化球を捉え、センターに転がす。
井伊は3塁を蹴ってホームに突入。
しかし、センターを守る町田が矢のようなストライク送球でキャッチャーの森本に送球してクロスプレイとなる。
判定はアウト。
ただそれでも2アウト1、3塁。
打席にはライトを守る増田が立つ。
1球目、空振り。
2球目、ボール。
3球目、ファール。
4球目、ファール。
5球目、ボール。
全ての観客が固唾を飲んで見守る。
6球目、打球が前に飛んだ。
センターの前に落ち···無かった。
またしても町田。
ダイビングキャッチという失敗したら1塁ランナーすら帰ってくるギャンブルプレイに打ち勝ち、打球を掴み取った。
試合終了。
4対2で東京ナインズが初戦を制した。
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