第6章 理科教師
カラカラ……
「竹中、」
科学室の扉がまた音を立て、誰かが輝夜を呼んだ。見ると、科学室の入り口に、白衣を着た若い男が立っていた。
「高宮先生」
輝夜が立ち上がった。男はかつかつと靴の音をたてて、科学室に入ってくる。理科教師の高宮光貴だった。この自然科学部の顧問でもある。各学年一人しかいない(特別参加の夜絵を入れて、四人)、ほぼ廃部同然の部だが。
「竹中、お前今日の発表、まるできいてなかっただろ」
「なんだ、またお説教か」
輝夜はため息をついてまた座った。
「聞いてましたよー。江口が水質調査で、小野が光の研究、金子が花と虫で、川西が月について」
「題だけは覚えてたみたいだな」
「そんなこと……」
高宮はふっと笑って言った。
「中身を覚えてるのはせいぜい月くらいだろ?まあいいさ。文化祭はどうするか決まったのか?」
「……ええまあ。例年通りプラネタリウムと展示発表になると思いますけど……。細かいことは明日きめるから……」
「そうか。観月はまた特別参加か?」
高宮がもう一人の少女に言った。
「……はい、そうさせてもらおうかと。先生、月の発表って……?」
夜絵は無表情に言ったが、声は少し不機嫌に響いた。
「1組の川西の自由研究だよ。月が地球の四分の一とか、月は地球の一部だとか言ってたぞ」
高宮がにやりと笑って言った。
「……」
「……」
「あと、月に生命はないとも言ってたぞ。お前らもやってみれば?月の研究」
少し間をおいてから、高宮はさっきと同じ顔でそう言うと、あはは、と笑って出て行った。二人が黙ってしまうのが、最初からわかっていたみたいだった。また二人きりに戻ると、輝夜と夜絵は顔を見合わせた。
「……輝夜、高宮のやつ、何か知ってるの?」
「知ってるわけないじゃん。普通の人間なのに……」
二人きりになった科学室は、また静まり返った。
どこかで、思い出したように啼き始めた蝉の声が聞こえてきた。
過ぎてしまった季節を呼び起こすかのように。
止まっていた時を、再び動かすかのように。
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