第15話「振り向かせることに成功しまして」

「聞いたわよレヴィ。あなた、シャーロットちゃんと一緒に眠っていたらしいわね……!」




 嬉々としたお義母様がそう言ったのは、ホワイトレイ一家が揃った朝食の席でのことでした。


 一緒に眠っていた、確かにそうですが、改めて言われるとなんだか恥ずかしいです……。

 ちらりとレヴィ様の方を見ると、なぜか貼り付けたような笑みを浮かべていました。




「侍女から聞いたのでしょうけど、それにしても伝わるのが速いですね。たった30分前のことですよ? そして、母上が考えるようなことはありませんでしたのでご安心ください」


「あらそう? ではどうして一緒に眠っていたの?」


「……それは私からお願いしました。とある夢を見るのが怖くてここ数日眠れてなかったのです。それで、レヴィ様と一緒なら眠れるかもしれないと考えまして……、レヴィ様にはご迷惑をおかけしました……」




 今思えばどうしてあの時そんなことを考えたのでしょう。……睡眠不足で判断能力が落ちていた、ということにしますかね。きっとそうです。




「迷惑だなんて思っていませんよ。むしろ頼ってくれて嬉しかったです」


「……そうなのですか?」


「はい、好いている人から頼られるのはとても嬉しいものですよ」




 レヴィ様……、そう言ってもらえて私も嬉しいです。頬は赤くなってしまいましたが。




「おやおや。随分と二人の間の雰囲気が変わったね?」


「母上が言うところのことに成功しまして」


「そうか、ようやくか……」




 お義父様、どうしてそんなに感慨深くおっしゃるのですか?


 もしや、以前レヴィ様がおっしゃっていた、お義父様やお義母様、リアム義兄様には私への気持ちがバレていた、ということですか? そしてレヴィ様は皆様から応援されていた、とか……?

 あり得ますね……。なんでしょう、恥ずかしいです……。




「シャーロット」




 お義父様は改まった様子で言いました。




「何でしょうか?」


「レヴィは昨日のように暴走することもあると思う。それに親である俺でも何を考えているのか分からない時もある。だが、シャーロットを思う気持ちは誰にも負けないはずだ。……レヴィを、よろしく頼む」


「俺からもよろしく頼む。父上の言う通り、レヴィは時々暴走するからな。そんな時は止めてやってくれ」


「わたくしからもよろしくお願いするわ。あなたたちならきっと上手くやれる、そう信じています」




 リアム義兄様とお義母様まで……、レヴィ様、ご家族から愛されていますね。そんなことを考えながらレヴィ様を見ると、嬉しそうに恥ずかしそうに微笑んでいました。

 家族だけに見せる顔、というものを垣間見た気がします。好きな人には格好つけたいものですから。




「ありがとうございます。お義父様からもリアム義兄様からも、お義母様からも、しっかりと頼まれました。こちらこそよろしくお願いいたします!——」






「——明日にはフェイバリット公爵家へ戻っても大丈夫でしょう」




 朝食の後、お医者様に診察をしていただきました。


 私の体調を考えて見送られていたフェイバリット家への帰宅、どうやら明日になりそうです。レヴィ様方と離れるのは寂しいですが、流石にそろそろ帰らなければ。お父様には何と言われるのでしょうね……。




「ありがとうございます」


「はい。私はこれで失礼いたしますね。お大事になさってください」




 そう言ってお医者様は去っていきました。




「……では、明日転移魔法でお送りしますね」


「よろしくお願いします……」




 思ったより寂しそうな声色になってしまいました。レヴィ様も気づいた様子で、私の頭を撫でています。頭を撫でられるのは、どうしてこんなに落ち着くのでしょう? ……レヴィ様だから、ですかね。




「ロティ、そんなに寂しいのですか?」


「はい……。3年前は寂しがることもできずに会えなくなってしまいましたから。またそうなるのではないかと、そう思ってしまって……」




 そう伝えると、レヴィ様はなぜか笑顔になりました。わ、私は至って真面目に寂しがっているのですよ……! 笑うところはないはずです!




「ふっ、すみません……。ロティが可愛過ぎて……」


「……え?」




 笑うほど可愛いと言われることをした覚えはないのですが?




「ロティは、また会えなくなるかもしれないことが不安で寂しいのですね。それはつまり、そう考えるほどに私を思ってくれている、ということにはなりませんか?」


「確かにそう、ですね……?」




 私はレヴィ様と会えなくなるかもしれないことが不安で寂しい、……できることなら離れたくない、……レヴィ様のことが大好きだから。

 顔に熱が集まってきましたよ……!?




「そこまで私を好いてくれている、そう考えたら、とても可愛いなと思いまして、笑ってしまいすみません」


「い、いえ……だいじょうぶ、です」


「それはよかったです。……そうそう、無意識に言ったことの意味に気づいて赤くなっているロティも可愛いですよ」


「っ!? ありが、とう、ございます……」




 今日のレヴィ様はいつもより少しだけいじわるな気がします……。

 ……そうです! 今度可愛いって言われたらささやかな仕返しをしましょう! 私ばかり照れているのはなんだか悔しいですから。

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