第14話「……これは夢、でしょうか?」
「あとは、好きな人には笑顔でいてほしいというものです。だからそんなに難しそうな顔をしないで笑ってください。ロティには笑顔が一番似合いますから。まあ、どんな表情のロティも可愛いですがね」
笑顔が一番似合う、ですか。照れてしまいます……。それに、私もレヴィ様には笑顔でいてほしいです。
「やはり、笑顔が一番似合いますね」
「……ふふっ、ありがとうございます」
「いえいえ。……私がすぐに思いつく恋愛的な『好き』というものはこのくらいですね。……そうです。大切なことを忘れていました」
「何ですか?」
「今まで話した『好き』は、家族……それこそ兄妹でも言えることだと思います。ですが、家族に向ける『好き』と恋愛的な意味での『好き』は、自分自身がどちらだと考えるかで変わるのではないでしょうか。……あくまで私の考えですがね」
「なるほど、……です」
レヴィ様が話してくださった「好き」は、私がレヴィ様に向ける「好き」にも当てはまっていました。これが兄に向けるものなのか、それとも恋愛的なものなのか……。
答えは明白ですね。兄に向けるものならば、ここまで悩むことはないはずです。
つまり、私はレヴィ様のことが恋愛的な意味で好き……。
「どうしましょう。私、レヴィ様のことが好きみたいです。……恋愛的な意味で」
「っ! ロティ!」
レヴィ様は感極まったように私を抱きしめました。私はおずおずと抱きしめ返します。
優しく包み込むようなその抱擁は、とてもあたたかくて、嬉しくて、でも少し恥ずかしくて、好きが溢れて……、なんだか不思議な気分です。
「……これは夢、でしょうか?」
「ふふ、現実ですよ」
そう答えてくださったレヴィ様は私を抱きしめる力を少しだけ強くしました。
「……確かに現実ですね」
「そうですよ。ロティ、私の目を見てくださいませんか?」
不思議に思いながらもレヴィ様の目を見つめます。
「私もロティのことが好きです。もちろん恋愛的な意味で、です。だから思いを返してくれて、とても……、とても嬉しいです。愛していますよ、ロティ」
そう言ったレヴィ様の顔が近付いてきます。目を瞑ったら、唇に柔らかなものが触れました。
それは何度か触れ、名残惜しくも離れていきます。そっと目を開けてみると微笑んだレヴィ様が私を見つめていました。
どちらからともなく、私たちはまた顔を近づけます。
————初めてのキスには、幸せになる魔法がかかっていました。
***
いつの間にか眠っていたのでしょう。カーテンの隙間から朝の光が見えます。
一瞬、あれは夢なのではないかと思いましたがそれも杞憂でした。
隣には世界で一番愛しくて可愛い人がいますから。その人はすやすやと眠っています。どうやら怖い夢は見なかったようですね。
私のロティを眠れなくさせるなんて、例え夢であっても許しはしません。そうです、ロティが怖い夢を見ないように安眠の魔法でも考えましょう。
「……ぅ」
愛しい人はお目覚めのようです。
だんだんと意識が覚醒してきて、眠る前のことを思い出したのか、こちらを見て顔を赤くする姿も可愛いです。……本当にどうしてこんなにも可愛いのでしょう?
誰かに聞きたいほどです。……いや、やはりロティの可愛い姿は私だけが知っていたいのでやめておきましょう。
「おはようございます、ロティ」
「……お、おはよう、ござい、ます、レヴィ様」
「眠れましたか?」
「は、はい……。怖い夢も見ませんでした。きっとレヴィ様のおかげですね」
「それはよかった、婚約者冥利に尽きますね」
本当にそれに尽きます。怖い夢を見なかったことを私のおかげと言ってくれるなんて、なんですかこの可愛い人は。……私の婚約者ですね。
「婚約者冥利に尽きる、ですか……? それなら私もですよ。大好きなレヴィ様に好き……、だと、何の
言い出したは良いもののだんだんと恥ずかしくなってしまった、といったところでしょうか。可愛過ぎます……。
婚約者だからこそ好きだと伝えることできる……、確かにそうです。そしてもう思い合っているのですから、遠慮する必要なんてない、ですよね。
「ロティ、ありがとうございます」
「……何がでしょうか?」
「もう好きだと伝えることを遠慮しなくても良いと気づかせてくれて、です」
「どういたしまし、て……!?」
「困惑するロティも可愛いですね——」
ロティ、知っていますか? 私はあの時から、ロティを溺愛したくなる魔法にかかっているのですよ。正しく言うのなら、その魔法にかかっていることに気づいた、ですが。
あの時、……シャーロット自身も精一杯だったにもかかわらず私の話を聴いてくれた時、思いました。愛しくて、目が離せなくて、守りたくて、自分だけのものにしたいと……。
私があなたに惚れた理由、いつかお話しできたら嬉しいです。その時は聞いてくださいますかね?
————私の愛しいロティ。
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