第12話「一緒に眠ってくださいませんか?」

 今日は色々とありました。リアム義兄様がやってきたり、レヴィ様を探しに行ったり、お義父様とお義母様に怒られたりと。……そういえば、レヴィ様はどうしてあんなところにいたのでしょうね? 明日にでも聞いてみましょう。


 そんなことを考えながらベッドに横になります。

 今日こそは眠れると良いのですが。睡眠不足が続くのはきついですからね。


 目を瞑って、深呼吸をして……。


 ……どうしましょう。あの真っ暗な夢が手招きをしている気がします。眠りに落ちたら、またあの世界に入ってしまうのでしょうか。それは……怖いです。世界で独りきりになるようなあの感覚はもう味わいたくありません。

 そもそも、今まで私はどうやって眠っていたのでしたかね?


 ……ダメです。このままだと一向に眠れません。


 ふと目を開けてみると、レヴィ様の部屋へと続く扉から光が漏れて見えました。


『私の部屋にはいつでも入って大丈夫ですからね』


 そう言っていましたし、いい、ですよね……?

 どこかにいる冷静な自分がやめておきなさいと言っていますが、それを聞くほどの判断力は残っていません。全ては睡眠不足の……、あの夢のせいです。


 私は枕を持って立ち上がり、その扉をノックしました。




「……どうかされましたか?」




 心底驚いた表情のレヴィ様が開けてくださった扉に体を滑り込ませます。ベッドサイドランプの優しい灯りに包まれた落ち着いた空間。読書中だったのでしょう。本が置かれています。




「……ロティ?」


「……レヴィ様、一緒に眠ってくださいませんか?」




 口をついて出た言葉は思った以上に眠たそうでした。体が睡眠を欲していると言っている気がします。




「……え。……一緒に眠る、ですか?」


「そうです。あの真っ暗で音がなくて怖い夢は見たくないのです。お願いします。一緒に眠ってください」


「っ!? ……ロティのお願いとあらば」


「ありがとうございます」


「……どうしてでしょう。いつも以上に可愛すぎます」




 レヴィ様、何か言いましたか? 手で顔を覆ってどうされたのでしょうね? そう思って近づくと思いっきり顔を逸らされてしまいました。




「……まあ、あの……どうぞ」




 促されるままにベッドに寝転びます。……レヴィ様は寝ないのですかね? 何かをためらうかのようにじっと立っていますよ。




「レヴィ様? 一緒に眠ってくれるのではないのですか?」


「あ、ああ、そうですね」




 そうしてお互いにベッドに入りました。


 それからしばらく続いた無言の時間を破ったのはレヴィ様です。




「……ロティは、怖くはないのですか?」


「何がですか?」


「……私、これでも男ですよ?」




 確かにレヴィ様は男性ですね? それがどうしたと……なるほど、そういうことですか。

 ……不思議と怖くはないのですよね。なんというか、私の意思を必ず尊重してくださるという安心感があるというか。




「怖くはないですよ。レヴィ様は私が嫌がるようなことを絶対にしませんから」


「それは……、買い被り過ぎですよ」


「ではそのようなことをするのですか?」


「いえ、絶対にしません」




 食い気味にそう言ったレヴィ様の表情は至って真面目です。それがなんだかおかしくて笑ってしまいました。




「ふふっ、やはり買い被り過ぎではありませんね?」


「……ええ、そうですね。……これはロティから信頼されていると喜ぶべきなのでしょうか?」


「最後、何かおっしゃいましたか?」


「いえ、取り立てて話すようなことではありませんよ」




 そうですか……? レヴィ様が言うのならそうなのでしょう。


 だんだんと、いつもの余裕たっぷりな笑みを浮かべているレヴィ様に戻ってきましたね。いつもの姿が見れて安心したような、珍しい姿をもう少し見ていたくて残念なような……。複雑な気持ちです。




「……話は変わるのですが、どうしてレヴィ様は数日間帰ってこなかったのですか?」


「それは、ですね……。ロティを守るためもっと強くならねばと、魔法の訓練をしていたのですよ。魔法を倒れる寸前まで使い、回復するまで休み、また魔法を使い……を繰り返して。いつの間にか数日が経っていました。12時間ごとに屋敷へ自動で連絡を入れる魔法を使っていたので、そこまで心配はかけてないだろうと思っていたのですが、そんなこともなかったようですね……反省しています」




 私を守るために魔法の訓練を、ですか……。


『魔力量を増やすには、魔法を使うのが一番だ』


 私たちの師匠がよく言っていたことですが、これには続きがあります。

 倒れるまで魔法を使うなんて大馬鹿者のやることだ、下手をしたら命に関わることだからな、というものが。


 レヴィ様は一度集中したら誰かが引っ張り出すまで止まらないという節があります。今回はそれに入り込んでしまったのでしょう。




「……レヴィ様、せめて、誰かに相談するか分かりやすい場所でやってください。今回は私が気づけたからよかったものの、誰も気づかなかったらどうするのですか?」


「……やるなとは言わないのですね?」


「言いませんよ? そこまで言ってしまうのは少し違う気がしますから。魔法に熱心なレヴィ様もす——」

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