第8話「久しぶりに魔法を使いたくはありませんか?」
「一つ確認なのですが、フェイバリット公爵家でも魔法の練習はしていましたか?」
そう聞かれたのはホワイトレイ家の程近く、魔法練習場でのことでした。
ホワイトレイ辺境領に接する森には魔物がいます。何の対策もしなかった場合、増えた魔物が人里におりてきてしまうのです。
魔物、それは理性を失った獣のこと、彼らには心臓がありません。代わりにあるのは核となる魔石です。
ホワイトレイ辺境領では6歳の頃から魔物を倒すための訓練が行われています。それは辺境伯一家も変わらないこと。「統べる者が魔物すら倒せなくてどうする」というホワイトレイ家のご先祖様の言葉が始まりだったそうです。
ホワイトレイ辺境伯家で育った私も例に漏れず魔物を倒すことができます。剣ではなく魔法で、ですがね。レヴィ様は兄弟子でもあります。
フェイバリット公爵家でも、魔法の基礎練習である魔力制御は欠かしたことがありません。公爵家の周囲にはたくさんの人が住んでいたため、実際に魔法を使っての練習はほとんどできませんでしたが。
それを伝えると、レヴィ様は「それならば大丈夫ですね」と頷きます。
「久しぶりに魔法を使いたくはありませんか?」
「使いたいです……!」
少し食い気味に答えてしまいました……。でも仕方がない、はずです。公爵家で使えなかった分、ここなら遠慮なく魔法を使えるんですから。思いっきり魔法を使うのは楽しいのですよね。
「では、あの的を狙って……そうですね。風魔法をどうぞ」
「承知しました!」
風魔法は私が一番得意とする魔法です。せっかくですし、あの魔法を使ってみますか。
「〈
私が放った風の弾は見事的を貫きます。
小さく圧縮した風の弾を放つ風魔法。これは3年前にレヴィ様が生み出した魔法です。実はこっそり練習していました。当時は魔力制御の技術が足りてませんでしたが、練習した甲斐があってできるようになりましたね。ぶっつけ本番でしたが成功して良かったです。
レヴィ様の方を窺うと、驚いた表情をしています。狙い通りですね。
「ロティ、今の魔法はもしかして……?」
「そうです。レヴィ様が3年前に開発した風砲の魔法です」
「やはりそうですよね。教えた覚えはないのですが、どうやって使ったのですか?」
「見様見真似で使いました」
見様見真似といっても、理論を考えたり程よい魔力制御の仕方を研究したりとありましたが。それは隠した方がかっこいいから言いません。
「……! ふふっ、そうですか。流石私の婚約者殿です。見様見真似でできるだなんて、とても練習したのですね」
……なんだか隠せてないような気もしますが、まあいいです。レヴィ様が笑いのツボにはまるという珍しい姿が見られたので。
「ふふっ、くっ、ふふふ」
「……いつまで笑っているのですか?」
「ふっ、すみませ、ん。……はい、落ち着きました」
と言いつつもまだ若干笑っているのは分かっていますからね! 口元がひくついていますよ!
***
あの後、魔法の練習に夢中になり、気づいたら夕方になっていました。
「——ロティ、よろしければ泊まっていきませんか?」
「え?」
突然の提案ですね。一体どういうことなのでしょう? ……いやそのままの意味ではあると思うのですが。
「泊まったら明日も魔法の練習ができますよ?」
「そ、それは……」
魅力的です……。魔法の練習で揺らいでしまう自分がいますね。
ですがご迷惑なのではないでしょうか? それにお父様が許可してくれるとも思えません。
「ああ、私たちとしては全く迷惑だなんて思いませんよ。お義父様から許可は取ってありますし」
「いつの間にですか!?」
「朝のうち、ですね」
そう言ったレヴィ様からは絶対に泊まらせるという気概を感じました。
……せっかくですし、泊まらせていただきますかね。明日も魔法の練習ができるとのことですし、……魔法の練習ができるとのことですし。
「……では、お言葉に甘えて泊まらせていただきます」
「はい、ありがとうございます」
こうして長いかもしれない夜は始まりました。
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