第2章 婚約

第7話「ホワイトレイ辺境領へようこそ」

 レヴィ様と婚約してから早数週間が経ちました。


 婚約前と比べて変わったことといえば、3、4日に一度ほどレヴィ様が会いに来てくださるということくらいです。来てくださった時は、一緒に庭を散歩したり、お茶の時間を楽しんだり、お話をしたりと、ゆっくり過ごします。


 そしてなんと今日は、婚約後初めてホワイトレイ辺境伯家に行く日なのです……! つい先日渋々といった様子のお父様から許可をもぎ取ることに成功しました。


 ……条件付きですがね。必ず誰かと一緒に行動すること、一人にならないことを厳命されました。




「準備はできましたか?」


「……!?」




 慌てて後ろを向くと、レヴィ様がいました。いつの間に私の部屋に入っていたのでしょう? 気配がありませんでしたよ?




「……ちょうどできたところです。おはようございます、レヴィ様」


「ええ、おはようございます、ロティ。それでは行きましょうか」




 私の手を握ると、レヴィ様は魔力を練りだします。

 ……ま、まさか魔法で移動するんですか? そんな訳ない、ですよね?




「〈転移テレポート〉」




 ……そんな言葉が聞こえた次の瞬間、景色ががらりと変わりました。先ほどまでいた部屋の面影は一つもなく、周りには緑が広がっています。


 それにしても、まさかは普通に起こるものですね。転移魔法にはかなりの魔力を使うはずですが、大丈夫なのでしょうか? そしてフェイバリット家の皆さんに何も言わずに来て良かったのでしょうか?




「さあ、着きましたよ。ホワイトレイ辺境領へようこそ」




 そう言ったレヴィ様は……、顔色も良いし、魔力もそんなに減っていません。いつも通り会話もできています。レヴィ様への心配は要らなかったようですね。もう一つの心配はどうなのでしょう?




「……あの、何も言わずにこちらへ来てしまいましたが、大丈夫だったのでしょうか?」


「ああ、それでしたら大丈夫ですよ。あらかじめお義父様に転移魔法で移動すると伝えてありましたから」


「そ、それなら良かったです」




 いつの間にそんな根回しを……?


 手を引かれ、しばらく歩いていると、ホワイトレイ辺境伯家の屋敷が見えてきました。ここに来るのは3年ぶり。なんだか少し緊張します。




「ふふ、大丈夫ですよ。ロティはいつも通り素敵で可愛いですから」


「ありがとうございます……?」




 緊張しているのに気づかれてしまいましたか。それにしても、素敵で可愛いだなんて、恥ずかしくなってしまいます……。


 少しだけ赤くなっている私ですが、レヴィ様に促されるままホワイトレイ家の門をくぐりました。




「ホワイトレイ辺境伯家へようこそ。また君の家族になれて嬉しいよ。俺のことは前のようにお義父様おとうさまと呼んでくれ」


「よく来てくれたわ。これからよろしくね。私はお義母様おかあさまでお願いするわ」


「久しぶりだな、元気そうでよかったよ。俺も昔みたいに呼んでくれていいからな」




 リアム義兄様にいさま……、お元気そうでよかったです。


 相変わらず、この家のゆったりとした空気感は落ち着きますね。なんだか昔に戻ったような気分になります。




「はい、ありがとうございます。お義父様、お義母様、リアム義兄様、どうぞよろしくお願いいたします! 私のことも以前のようにお呼びください」


「うん、よろしくね。シャーロット」


「シャーロットちゃん、早速だけどあなたのお部屋に案内するわ」


「お部屋ですか……?」


「ええ、シャーロットちゃんはもう立派なですからね」






「——ここよ。この屋敷で一番日当たりが良くて、シャーロットちゃんにぴったりなお部屋ね」




 お義母様が案内してくださったのは、3年前まで私が使っていた部屋。部屋全体の色は私の瞳と同じ深緑色、そしてオフホワイトで揃えられています。家具の配置もあの時のままのようです。


 それに、確かこの部屋は——。




「隣がレヴィの部屋よ。この扉を開ければレヴィの部屋に行けるわ」




 そう、隣がレヴィ様の部屋です。……以前はなんとも思いませんでしたけど、この部屋の繋がり方はどう考えても夫婦が使うものですよね。それを兄妹が使っていて良かったのでしょうか?


 隣にいるレヴィ様を見ると「うん? 何か問題でも?」と言いたげな笑みを浮かべています。……これは、触れてはならない話題かもしれません。


 あれやこれやとありますが、とても嬉しいサプライズです。またこの部屋に入ることができるなんて、それも自分の部屋だなんて、本当に感謝しかありません。




「どう? 気に入ったかしら?」


「はい、とても……! 素敵なお部屋をありがとうございます」


「それはよかったわ。では邪魔者わたくしは退散するわね。レヴィ、振り向かせるのよ。頑張りなさい」




 そう言ってお義母様は部屋から出て行きました。


 さて、レヴィ様は何を応援されたのでしょうね? 私を振り向かせるのを応援された、なんてことではないはずですよね?




「ロティ、私の部屋にはいつでも入って大丈夫ですからね」


「わ、分かりました」




 とても良い笑顔で言ったレヴィ様に対し、私は苦笑いで返しました。

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