第5話「……きっと、きっとよかったはずです」

 さて、どうしましょう……? 今答えないとダメな雰囲気ですし、でも私の気持ち? を答えた方が良い気がします。……そもそも私の気持ちってなんですかね。




「……、損得で考えていただいても構いません。私の気持ちに対しての返事はまだ答えなくて大丈夫です」




 それなら今答えられそうです。


 損得で考えるとなると、レヴィ様との結婚は得しかないです。身分、問題なし。フェイバリット公爵家との関係、問題なし、むしろ良好。その他、ホワイトレイ辺境伯家の問題も特にないですから。そんな相手はこの貴族社会になかなかいません。


 と、なると私の結論は……。




「レヴィ様、その求婚お受けします。完全に損得で考えましたが……」


「ありがとうございます。とても嬉しいです。それでは、これからよろしくお願いしますね、婚約者殿?」


「はい、よろしくお願いします。婚約者様」




 レヴィ様は花のようにふわりと笑いました。


 その笑顔はきっと心の底からのものでしょう。……言われた通り損得で考えてしまった答えでしたが、本当にこれでよかったのでしょうか?




***




 あの後、庭から戻ってレヴィ様からの求婚を受けたと報告すると、三者三様の反応が返ってきました。


 レイラ様は「シャーロットさんがまた娘になってくれるなんて、嬉しいわ……!」と喜びを全面に出し、オスカー様は嬉しそうにしながら「これからよろしく」と。

 そしてお父様は「しゃ、しゃーろっとぉぉぉおぉ!? 本当に、本当にそれで良いのかい!?」と、今までになく慌てていました。


 どうしてそこまで慌てていたのかはよくよく聞いていないので分かりませんが、「可愛い娘が家からいなくなるなんて……、耐えられないよ」と親バカを発揮しているのではないかと思っています。


 それから数日後、婚約署名をする日になりました。


 求婚を受けたからといってすぐに結婚するわけではなく、一年以上の婚約期間を設けます。今日はその婚約期間が始まる日。貴族の結婚は色々とあるのです。




「シャーロット、本当にレヴィくんと婚約するんだね!? 今からでも考え直すのは——」


「考え直しません。レヴィ様と婚約します」




 少なくとも今日10回は繰り返したやり取りですね。




「……お父様、今日だけでも何回目ですか」


「仕方ないよ。父上はシャーロットのことが大好きだからね」


「セオドア兄様……」


「でも父上の気持ちはよく分かる……! いくら学園生徒会で一緒だったレヴィでも可愛い可愛い妹をやりたくない……!」




 セオドア兄様もぶれませんね。その気持ちは嬉しいので受け取らせていただきますが。


 そしてセオドア兄様とレヴィ様って学園の生徒会で一緒だったのですね。初耳です。……まあ、私は学園に行きませんでしたし、知らなくて当たり前、ですかね。




「……なんて言ってみたし実際そう思っているけど、シャーロットが決めたことなら僕は応援するよ」


「……ありがとうございます」




 セオドア兄様は笑顔で頷きました。


 ですが、何でしょう。この心にあるもやもやは。……完全に損得で決めてしまいましたが、これでよかったのですよね? ……きっと、きっとよかったはずです。

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