魔王と福神漬け
そして3人は入店すると早速ピザの注文をする。
まずクロスが注文したのはマルゲリータとドリンクのセット。
マルゲリータとはトマトソースの赤。モッツァレラチーズの白。バジルの緑。……というイタリア国旗のカラーで作られマルゲリータ女王へ献上されたピザの事である。
そして魔王が注文したのはカプリチョーザとドリンクのセット。
カプリチョーザとは日本語に訳すと「気まぐれ」という意味で、要はピザ職人のその時の気分でトッピングが決まるピザの事であるが、この店の職人は相当な気分屋なのか魔王が渡されたのはピザではなくカレーライスだった。
最後にsiriが注文したのはドミノピザとドリンクのセット。
ドミノピザとは注文するとピザ職人が自分の代わりにドミノピザにネット注文してくれるサービスの事ではなく、カレーライスにドミノが刺さっているピザの事である。
なのでピザ屋なのに3人中2人がカレーライスを食しているという奇妙な光景の中で――
魔王がスプーンに山盛りの福神漬けを一口で平らげていると、まずはクロスが話題を振る。
「それで? 1ヵ月で収穫はなかったってさっきは言ってたけど、ハーレム以外の事はチャレンジしてないの?」
と言い終えてから、クロスはハフハフしながらアツアツのピザに嚙りつく。そしてその隣ではsiriがアツアツのおしゃぶりをバブバブしているが、これに魔王は福神漬けの山にスプーンを差し込み。
「うむ。siriとも話したのだが、これが一番長期的な計画となるであろうから、ある程度の成果が出てから他の計画と並行すべきだと判断したのだが、今のところなんの成果も得られていないので、他の計画も発進出来ていない……と言ったところだ」
と口の中へ福神漬けを放り込んだ。
「う〜ん。それは残念だね」
クロスが眉を顰めながら小さな笑顔を浮かべる中で、魔王は
「はははっ。まあ、こういったものは過程も楽しいものだからな……寧ろすぐ達成してしまってはつまらないまである」
言って魔王は大口を開けて天を仰いでいたが、すぐにカレー……ではなく福神漬けをパクつき始める。それを見たクロスは満足そうに頷き。
「そっか。ま、人間界を楽しんでもらえてるなら良かった。で、そうなると魔界の方はどうなの? 上の人達の命令無視しちゃってる件は大丈夫そう? 今のところお咎めなし?」
すると魔王は苦笑しながら福神漬けを口へと運び。
「ないない。もしかしたらもう私の事など忘れているのかもしれんな? はっはっはっ!」
――とその時だ。
「そんな訳ないだろうっ!!」
突然飛んできた声に魔王、siri、クロスが揃ってそちらに顔を向ければ、そこに居たのはこの店の制服を着た女性……ピザ職人の女性だった。
女性は美人が台無しなるほどコメカミに青筋を立てて、両腕を組んだまま魔王達を睨み付けている。
「え? だ、誰? 今の明らかにあたし達に言ってたよね? なんで急にお店の人が?」
困惑するクロスだが、ピザ職人の女性はそれを無視してツカツカと魔王達の席へと来ると「バンッ」と片手をテーブルへと叩きつけた。
「お前は楽観視し過ぎだっ! 良いか、私をここへ寄越したのは魔王ランキング5位のデブエルだぞ? これが何を意味しているのかお前はわかっているのか?」
鬼の形相で魔王を睨み付ける女性だが、対する魔王は冷やし中華の妖精のように涼しい顔で小首を捻り。
「いやーそう言われても私、そのデブエルって奴と面識がないからなぁ? そんなヤバイ奴なのか?」
――と。
「ん? えっ? ちょっと待って、魔王さんお知り合い? ってゆーか魔界の人?」
クロスが混乱に輪を掛けていると、魔王は手の平に縦にした拳をポンと打ち下ろし。
「おお、すまない。クロスには紹介がまだだったな……実は彼女は――」
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