魔王。1ヵ月の成果

「待ってーッ!! 誰か拾ってーッ!!」


 ――瞬間。魔王とsiriのアゴが跳ね上がる。


「この声はっ!?」

 魔王は叫ぶと同時に視界の隅で声の主の姿を捉えるも、とりあえずは無視して転がり来るオレンジへと向かう。そして素早い脚捌きと華麗な手捌きで全てのオレンジを瞬時に拾い上げた。


「ほぅ? 本当にちゃんとオレンジであったな」

 片手でオレンジを抱えつつ、残りの片手でオレンジ2個をお手玉する魔王。そこへ――

「あーやっぱり! 見た事ある人影だと思ったら魔王さんにsiriちゃん!」

 小さく息を切らしながら、フランスパンの刺さった茶色い紙袋を抱えて駆け寄ってきたのは――1月でもミニスカサンタの格好をした山田十字架であった。


 クロスが「ありがとう」と言う中、魔王はオレンジをクロスの紙袋へと戻しつつ。

「うむ。久しいな。実は私の方も声が聴こえた瞬間クロスか? と思ったのだが服装を見て確信はしていた。……が、美女に出会えた事に間違いはないが――当ては外れたな」

 これを聞いたクロスは。

「当てが外れた?」

 と小首を傾げるもすぐに気が付いたか。

「アハハッ! もしかして魔王さんあれからずっとハーレム要因探し?」

 クロスが口元を押さえながら微笑んでいると、横から軟体動物のようにニュルっと現れたのはsiriで。

「恥も外聞もなく、意地もプライドも明日穿くパンツも捨てて女の尻を追っかけていたのですが未だ収穫ゼロですよ、このマオーは」

 と言いながら魔王を指差すが。

「おいおい。そんなに失くしたり捨てたりしていたら、今の私には知性しか残っていないだろう?」

「おいおい。マオーはそんなもの最初から持ち合わせていないだろう?」

 というsiriの言葉に魔王は両眉を吊り上げ。

「貴っ様ぁ! そんな事を言ったらお前は品性の欠片もないではないかっ!」

「ええ、ですから私は今日穿くパンツすら捨ててますからね」

「今日穿くパンツは捨てちゃダメでしょ! siriちゃん今ノーパンなのっ?」

 クロスが凄い勢いでsiriに顔を向けるが。

「安心して下さい。パンツは穿いてませんがおむつを穿いています。しかも紙おむつじゃなくて電子おむつです」

「か、紙じゃなくて電子ッ! あたし女だし、いやらしい気持ちじゃないけどさすがにそれはちょっと見てみたい!」

「ふむ。クロスさんなら構いませんよ。後でお披露目しましょう……但しマオー。てめぇーはダメだ」

 siriが両眼を光らせながら魔王に人差し指を突き付けるも。

「興味ないわっ! 私とて電子ふんどしだからなっ!」


 ――どうやら。魔界では次世代型の電子下着が流行っているようだ。


 といった話はさておいて。

「それにしても――また魔王さん達に助けられちゃったね? まさかあんなところに硬めのプリンがあるなんて思わなくて躓いちゃってさ。ま、それはいいんだけど良かったら今回もお礼に奢らせてくれない? 久しぶりに魔王さん達の話も聞きたいし!」

 と言い出したのは当然クロスだが、魔王はしみじみと頷きながらアゴを撫でる。

「うむ。そう言われてしまうと断る理由はないな。siriよ、今回もクロスのご相伴にあずかるぞ」

「御意」


 という訳で3人は一番近くにあった――ケンタッキーフライドナルドという名前の牛丼屋の姉妹店である、ミスタードーナルドという名前のピザ屋に入店するのであった。

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