くのいちの魔王


「――察しの通り魔界の者。魔王ランキング164位にして『くのいちの魔王』の異名を持つ、その名も『おねショ夕』と言い……私の幼馴染だ」

「お、おね・ショせき!? いや幼馴染っ!?」

 さすがは幼馴染といったところなのか、魔王は……いやsiriもなのかもしれないが、二人は初めからくのいちが店に紛れ込んでいた事に気付いていたようだが――唯一知らなかったクロスは魔王の言葉に驚愕していた。

「ふん。ならばもう変装する意味もないか」

 ピザ職人の女性は言ったかと思うと、自らの左肩に右手を掛け――店の制服を引きちぎるようにして剥ぎ取った。

 その早業は――魔法少女も女子力の高い魔法おじもビックリの変身魔法。いや、ただの早着替えなのか判別はつかないが、既にそこには例の露出の高い忍装束の姿をしたくのいちがいた。

「わっ、凄い! 本当にくのいちだ! って事は魔王さんの幼馴染っていうのも本当なんだろうけど……その幼馴染さんがわざわざ人間界まで何をしに?」

 このクロスの言葉に、くのいちは一瞥だけするとすぐに魔王に視線を移し。

『おいサイ卜。この侍女はなんだ? 話の邪魔になるから席を外すように言え』

 と、くのいちがクロスを指差すが魔王は。

「いやショ夕よ。彼女は侍女ではない。彼女は今私が人間界で一番懇意にさせてもらっている女性で山田十字架だ」

「あ、山田十字架です。宜しくねショ夕さん」

 と丁寧に頭を下げるクロスだが。

「……?」

 戻した頭にすぐに疑問符を浮かべる。その理由は……目の前でくのいちが白目を剥いてカタカタ震えていたからである。

『い、い、い、い、一番懇意にさせてもらっているじょ、じょ、女性ィだとぉ!?』

 もうどこを見ているのかわからない、白目のまま口布の隙間からヨダレまで垂らしている――およそ忍とは思えない醜態を晒すくのいちに。

「……幼馴染は負けフラグ」

 siriが誰にも聞こえないようにポツリと呟いていた。


「あの……大丈夫? 空いてる席座る?」

 生まれたての子鹿のようにガタガタ震えるくのいちにクロスが寄り添うが。

『と、取り乱してすまない、大丈夫だ。だが、お言葉に甘えて席には座らせてもらおう』

 と言ってヨロヨロと席に着くくのいち。

 こうしてどこにでもある普通のピザ屋の一角に――黒マントの男、ミニスカサンタ、メイド、くのいち、という異世界冒険者なら間違いなく強キャラパーティーか、間違いなくおじ力の高い強キャラパーティーという出で立ちの集団が陣取っているが――


『一応最初に確認しておく。先程の話だとお前はこの1ヵ月間、何もしていなかったと読み取れるが間違いないか?』

 席に座り、ようやく少し落ち着いたのかくのいちが魔王に質問すれば、魔王は眉をハの字に曲げ。

「おいおい、人をニートみたいに言わないでくれ。私だってこの1ヵ月間それなりに公園でハトに餌をあげたり、知らない人のお墓参りなどしていたさ」

『それは何もしていないのニートと同義だ』

 と、くのいちが鋭く発すれば。

「そーだ、そーだ。知らない人のお墓参りなんてフンコロガシでも出来るだろー!」

 傍からなんの同意なのかよくわからない野次を飛ばすsiriに。

「いや出来んわっ! フンコロガシでも出来るって私は和菓子以下か!」

 と意味不明なキレ方をする魔王だが。

「いや、あの魔王さん。フンコロガシって糞転菓子っていう和菓子の事じゃないよ?」

「ほわぁぁあ!!」

 クロスの当然の指摘に、何故か両手で頬を押さえる魔王であった。

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