少女漫画風魔王

「うーむ。古の出会い方『曲がり角で衝突』は失敗だったな……」

 と両腕を組み、両の瞳を閉じて呟いたのは早速実践を終えて店に帰ってきていた魔王だった。


 魔王とsiriは、siriの強引な説得により魔王がダッシュで曲がり角を曲がって美女とぶつかる――もとい食パンとぶつかるという美女との出会いの方法を実践してみたものの、曲がり角で偶然やって来た食パンとぶつかったまでは良かったが、魔王のフィジカルが強過ぎて衝突した食パンがトンでもなく遠くまでブッ飛んで行ってしまったという……。因みにsiriの目測によれば「魔界まで飛んで行った」との事らしい。

 なのでこの方法は食パンだけが魔界転生してしまい失敗に終わった。


 ――ので、魔王達はケンタッキーフライドナルドという名前の牛丼屋に再び戻ってきて、ドーナツを摘みながら次の作戦を練っていた。


「ではマオー。次の古の方法です」

 と言ったのは、摘んだポンデリングの穴から片目を覗かせているsiriである。

「うむ。頼んだぞsiri。お前だけが頼りだ」

 と答えたのはフレンチクルーラーの穴から片目を覗かせている魔王である。

「では……次にマオーには本屋さんに行って頂きます。そして欲しい本をゆっくりと探しながら買って頂きます」

「欲しい本か……今私が一番欲しい本は『サルでもわかるゴリラの生態』という本だが問題はないか?」

 するとsiriはポンデリングの穴から覗かせている目で、ウィンクという名の目礼を一つ飛ばし。

「問題ありません。ここで重要なのは本の種類ではなく、ゆっくり探す事にあります。マオーが本を探すのに夢中になり、ようやく見つけて本を取ろうと手を伸ばした時――」

「……伸ばした時?」

「同じ本を探していた美女も手を伸ばしてきて、二人は同時にその本を掴むのです」

 これに魔王はフレンチクルーラーから覗かせている目をパチパチっと瞬きさせ。

「ほぅ? なるほど。同じ本を求める者であれば、趣味嗜好も似たような傾向にある……なかなか理に適った出会いの方法のようだが――そのあとはどうすれば良い?」

 これにsiriはポンデリングをテーブルのお皿へと戻し。

「その後は――美女と魔王は同時に本から手を放し、お互いに『どーぞ、どーぞ』と本を譲り合いますが、お互いに本を譲る気持ちを譲らないのでなかなかどちらも本を手にとりません」

「うむ。情景が目に浮かぶな……」

 と言いつつ、手を離したフレンチクルーラーを目で浮かべる魔王。無論、眼力ではなく魔法で浮かべているのだろうがそれはそれとしてsiri。

「なのでこのままでは埒が明かないのでマオーはこう言います。『私はこの本を5冊持っているのでここはお譲りしますよ?』と」

「うむ。確かに私は気に入った本は5冊所持するのが常だからな? するとどうなる?」

「すると美女はこう返します。『あ、私6冊持ってるので大丈夫ですよ』と」

「なにィっ!」

 目からフレンチクルーラーがブッ飛ぶほど驚く魔王。そしてそのフレンチクルーラーを冷静に口でキャッチするsiri。そんなsiriを無視して魔王はワナワナと震えながら。

「サ、サルでもわかるゴリラの生態という名の英和辞書を6冊も所持する美女だと? ……ま、まさか作者か? いや、なんであれ俄然その美女に興味が湧いてきたっ! siriよ、すぐに本屋に向かいその美女と出会うぞっ!」

「ラジャ」

 ここまで言うと魔王はぶように席を立ち、siriはフレンチクルーラーを平らげると、ポンデリングをタッパーに詰めて魔王の後を追うのであった。


 こうして本屋で早速実践をする魔王であったが、お目当ての本を見付けて手を伸ばした時、その本を同時に掴んだのは英和辞書だとは知らずにゴリラの生態を知りたかっただけのサルであった。


 ――つまりこの方法も失敗という事である。

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