魔王と食パン

 というところで一段落したのか。

「とまあ――他にもやりたい事は山程あるが、私が魔界追放に乗じて人間界に来た理由、日本に来た主だった理由はこんなところだな。現状、ダンジョン配信だけはどうしようもないが、他はいざとなればゴリ押しでどうにかなりそうな事がわかっただけでも大変有益であった。礼を言うぞ山田十字架よ」

 と、魔王が締めのような言葉を発すれば、クロスは小さく笑みを浮かべ。

「いえいえ。元はと言えばあたしが助けてもらった立場だし、なんだかんだで話してて楽しかったし……。あたしの方こそありがとうね」

 すると魔王も口角を釣り上げ。

「フフッ。左様か。ではそろそろ参るとするか……クリスマス・イブにこれ以上サンタクロースガチ勢を引き留めるのも気が引けるのでな」


 ――といった感じでこの日は山田十字架と別れ、店を後にした魔王とsiriであった。


 が。


 ――翌日。


 世間様はクリスマスだが、よほど気に入ったのか魔王とsiriは再びケンタッキーフライドナルドという名前の牛丼屋に来ていた。但し今日は昨日と違い、ガッツリ牛丼にいくのではなくサイドメニューである寿司を摘む魔王とsiriであった。


「良し。ではsiriよ。昨日のクロスの情報から早速私の日本でやりたい事計画を実行していきたいのだが、やはり最初に手をつけるべきは無自覚ハーレム計画だと思う。これが一番長期的な計画となり、他の計画と並行して進めていく必要があると思うのだが?」

 と言って豪快に中トロを口に運ぶ魔王。最早無自覚の意味を理解しているのか、いないのかわからない主張だが――siriは。

「そうですね。ハーレムというからには最低でも5人。出来れば7人くらいの美女が欲しいですからね。残念ながらマオーはこの美女達と出会うところから始めなければなりません。なのでまずはこの計画からスタートで宜しいかと思います残念なマオー」

 と言って大トロを摘むsiri。に、魔王は人差し指を突き付け。

「いや、確かに私は魔王ランキング最下位の魔王だが、別に残念な魔王ではない」

 するとsiriはテーブルに両手を着いて頭を下げ。

「失礼致しました。残念なマオーではなく非常に残念なマオーでした」

「あ、そっちに尖がるんだ」


 と。siriが顔を上げるのを確認しつつ、魔王はここで少し炙ったのどぐろを口へと運び頬張り終えると。

「まあ私がイケてる魔王なのは良いとして――では、どうやって美女達と出会うかだが……今のご時世だとアレか? やはりマッチングアプリなどを活用するべきなのか?」

 これにsiriはアナゴを一摘まみすると。

「そうですね。しかしそれは最新の方法であり――このような場合はやはりいにしえの方法から試していき、最後に最新の力に頼るのが宜しいのでは?」

「なるほど。で? 古とはどのような方法だ?」

「例えば――」

 ここまで言うとsiriは軽く炙ったエンガワを親指と人差し指で摘まむ。因みに先程から魔王は実際に寿司を食しているが、siriは本当に摘まんでいるだけで食べてはいない。……のでエンガワから指を離すと。

「例えばそうですね。まずマオーには『やっべ、初日から遅刻だ~』と言いながらどこかの学校の通学路を全力で走って頂きます」

「ほぅ? それから?」

「そしてそのままの勢いで、思いっきり曲がり角を曲がる……」

「で? で? するとどうなる?」

 何が面白いのか、何がそこまで興味をそそるのかわからないが何故か前のめりになる魔王。

「するとですね。向こうからマオーが居た道の方へと曲がろうとする、食パンを口に咥え『遅刻、遅刻~』と言いながら走って来るカワイイ女子高生ではなく、ホカホカの食パンそのものが曲がって来るのでそのままぶつかって下さい」

「そうきたかっ!」

 と嬉々としてイクラ軍艦の横にある食パンを摘まむ魔王。但し摘まんだだけ。そしてそれを確認したかどうかはわからないがsiriは続ける。

「すると当然ですがマオーと食パンは派手に転びます。そこでマオーは透かさず『ドコに目ぇ付けてんだっ!』と怒鳴って下さい。そうすると食パンが『すみません。耳しかないもので』と言ってくるはずです」

「いや、しゃべってるじゃん! どの口が『耳しかないもので』とかホザいてんの?」

 他にもツッコミどころは満載だが、何故かそこにしかツッコまない魔王にsiriはパタパタ片手を振り。

「まぁまぁ細かい事は気にせず、とりあえず実践あるのみです」

 と言って強引に魔王を説得し実践に移すのであった。

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