魔王とダンジョン
「おっと! Vtuberで思い出した!」
と、ハッとしたように顔を上げたのは魔王である。
「クロスよ。実は私はダンジョン配信もしてみたいのだ。今、日本ではダンジョンを探索する様を動画で配信するのが流行っているのであろう?」
この質問にクロスは顔の前で片手をヒラリヒラリと振り。
「え? いや、全然聞いた事ないんだけど? てゆーか日本にダンジョンなんてないよ?」
「へぁっ!?」
瞬間。魔王がこの世の終わり――人間のうんこだと思って踏んだら犬のうんこだった人のような絶望的な表情を浮かべる。
「バ、バカな……私の調べだと昨今の日本は理由もなくダンジョンが発生し、特に理由もなくダンジョンに入るのが当たり前と聞いていたが……?」
額に
「いやーないない。寧ろダンジョンなんて魔界の方がありそうだけど?」
と質問を返すと魔王は額の脂汗を拭いつつ。
「む? まあ確かに魔界にはダンジョンが腐るほどある。実際に全てのダンジョンが、腐っているダンジョン、半分腐っているダンジョン、腐り始めているダンジョン、腐ダンジョン、腐段着……の5種類に分類出来るからな」
「いや、普段着はダンジョンじゃないでしょ? てゆーかそれ腐るほどあるんじゃなくて腐ってるのが準拠されてない?」
どうやらクロスは腐段着と普段着を勘違いしているようだが、誰もそれに気付いていないので魔王は当然のようにスルーして一つ頷き。
「うむ、まあ魔界のダンジョンだからな? だからこそ私は日本で新鮮なダンジョンに挑んでみたかったのだ。そしてそのフレッシュなダンジョンで『オレだけ入れないダンジョンで赤の他人がレベルアップ』や『オレだけ視えるダンジョン……が見える位置でソロキャンプしてみた』や『オレだけダンジョンの幻覚が視えるので入院生活』といったダンジョン配信をしてバズりたかったのだ」
「名ばかりっ! それどれも名ばかりで1ミリもダンジョンの中に入ってない! 日本の新鮮なダンジョンでやる意味なし!」
と言っていたクロスだが――
――急に表情が変わり。
「……あれ? 話おもいっきり変わっちゃうけど、なんか甘くていい匂いしない? しかもこう――心が落ち着くっていうか癒されるような……?」
するとこちらも急に――siriが右手の人差し指を突き立て。
「説明しましょう。この甘い香りはさっきマオーが拭った脂汗の香り。通称『エ口汁』の香りです」
「エグチじるぅ?」
アゴがシャクレるほど驚くセクシーミニスカサンタ。にsiriはコックリ頷き。
「左様です。エ口汁には甘い香りだけでなくリラクゼーション効果、ヒーリング効果があり、マオーが脂汗を掻くような緊迫した場面でその効果を発揮するよう、マオーの歯茎から分泌される物なのです」
「歯茎っ!? いやさっき魔王さん額から出してたじゃん!」
「あ、歯茎というのは私の汗腺の二つ名の事だ」
と、これを言ったのは片手を軽く上げた魔王だった。
「汗腺の二つ名が歯茎っ!? 紛らわしっ!」
「うむ。因みに本物の歯茎の二つ名は初恋の味という」
「魔王の歯茎は初恋の味っ!」
と驚くクロスだが。
エ口汁……名前以外は理に適っている。魔王のネーミングセンスが壊滅的なため残念な物質のように感じるが……ちゃんと有用である。
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