魔王の野望
「――おい」
さすがに便所飯には耐え難いものがあったか、魔王が如何ともしがたい微妙な表情でsiriを睨む。
「確かに私は定期的にウーバーイーツで便所飯を注文するが、今の言い方だとまるで私自身が特殊な訓練を受けた便所飯みたいではないか。良いか? 私は特殊な訓練こそ受けた事はあるが、決して便所飯ではない!」
と魔王がこれでもかとsiriに人差し指を突き付ければ、siriは深々と――テーブルに額を擦り付けてまで頭を下げ。
「大変申し訳ございませんでした。お詫びして訂正いたします。マオーは便所飯ではなく便所でした」
「わかれば良い」
「いいのっ!! 格下がってない?」
何故か満足気にウンウン頷く魔王に、驚きを隠せないセクシーミニスカサンタと――頭を下げたまま「フッ」と鼻で笑っているsiriであった。
そしてsiriが頭を上げたのを確認してから、改まり新しい話題に入るクロス。
「じゃあさ、結局のところ魔王さんて人間界に来たくて来ただけって感じなんだよね? さっき個人的には目的だらけみたいな事言ってたし?」
クロスの言う通りで魔界十六神将や1位の話が出てきたが、魔王がそれらの命令をシカトすると宣言している以上、魔王は形式上は追放だが個人的には人間界に望んで移住した……というだけの話である。なので。
「左様。私は人間界でやってみたい事が山ほどある。例えばその一つに『無自覚ハーレムを作る』があるのだが、それで言えばクロスは明らかにハーレム要員の一人なのだが――私は無自覚ハーレムを作りたいと自覚しているので一生無自覚ハーレムが作れない。なので私の事は諦めてくれクロスよ」
と丁寧に頭を下げる魔王だが。
「え? なんであたし告白もしてないのにフラれたみたいになってんの?」
と目を丸くするクロスだが、クロスの言う事は尤もだ。
――とそこへ。
「因みにですが。マオーは無自覚ハーレムを作る以外にも、トラックに轢かれて死んで、異世界転生もしてみたい模様」
これを言ったのは、首だけをクロスに向けているsiriだった。
「いや、トラックに轢かれて死んでも必ず異世界転生って出来るワケじゃないと思うんだけど……?」
「あーやっぱり神様のうっかりミスでないとダメでしょうか? しかしその点で言えば神様はマオーを世界に誕生させた時点でミスを犯していると言えますが?」
と真顔で述べるsiriに透かさず魔王。
「おい。人をミスから生まれたみたいに言うな。私は神のミスで生まれたのではなく、神のうっかりミスで生まれたのだ」
これにsiriは再び平伏し。
「申し訳ございません。うっかりしてました」
「うむ。わかれば良い」
「あ、やっぱりいいんだ。でもなんかうっかりミスで生まれたっていうのは妙に説得力があるよね」
と独り言のように呟くクロスであった。
ここで魔王は急に何かを思いだしたか、頭に豆電球を浮かべると右手の人差し指を突き立て。
「そうだ。ではクロスよ、くしゃみをしてお金をもらうというのはどうだろうか? これならば比較的簡単に達成出来そうな気がするのだが?」
「くしゃみをしてお金をもらう? そんな事出来るの? どんな仕事?」
訝し気な表情を浮かべるクロスに、魔王は人差し指を左右に振りながら。
「いや、私も噂で聞いただけで詳しくはわからないのだが、日本ではくしゃみをすると『くしゃみ助かる』と言われてお金をもらえる人物が複数存在していると聞いたのだが?」
「あ、わかった! それVtuberの人達だ!」
「ほぅ? Vtuberか。それならば私も知っている。そうか、Vtuberになってくしゃみをすれば金がもらえるのだな?」
「うーん。どうだろう……?」
ここでクロスは腕を組むと、魔王の上半身を舐め回すようにして眺める。
「確かに魔王さんてVtuber向きではあると思うんだけど、くしゃみして投げ銭をもらえるかってなると――難しいかもしれない?」
と小首を捻るクロスであった。
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