魔王の血

「……え? だ、誰?」

 美人のミニスカサンタが困惑するのも仕方がない事。だがそれ以上に困惑……を通り越して「怒髪天を衝く」を文字通り体現していたのはモヒカン1&2だった。

「なんだテメェは! 邪魔なんだよ消えろっ!」

 と魔王の胸を突き飛ばすモヒカン甲。

「女連れがナンパの邪魔してんじゃねぇ!」

 と、こちらは魔王の肩を押すモヒカン乙。

 これに魔王の片眉が跳ね上がる。

「女連れだと? だったら貴様等は男連れではないかっ!」

「違う……そうじゃない」

 堂々と人差し指をモヒカン達に突き付ける魔王に、ミニスカサンタは頬に汗を垂らしていた。


 そしてこの言葉が売り言葉に買い言葉。モヒカン達のケンカ魂に火を点けてしまった。

 モヒカンゑは魔王の胸倉を掴み。

「テメェ……どうやら殴られたいみたいだな?」

 と拳を構える。しかし魔王は至って冷静に。

「やめておけ。後悔する事になるぞ?」

 と言い終わった時には既に顔面を殴られていた。

「おグゥッ!」

 なんか汚い叫びと共に顔に手を当てる魔王。見ればその手――指の隙間からは鼻血が垂れていた。

 魔王は片手で顔を押さえたまま、その滴る血を見て。

「ホラっ! 言わん事ではない……私の血で地面が汚れてしまったではないかっ!」

「そんな事知るかっ!」

 とがなるモヒカンゐだが、両肩を一度竦めると。

「チッ、もういい。シラけたわ……おい、行こうぜ」

「お、おう……」

 という――。魔王の気持ち悪い対応で、モヒカン達はいろんな意味で引いてくれた。


 そしてそんなモヒカン達の背を見送った直後に、魔王の下へとsiriが駆け寄る。

「マオー。お怪我は?」

「してるよ。見ればわかるでしょ?」

 しかしsiriはゆっくりと小首を捻り。

「いえ、私が言っているのは悪化させるかどうかです」

「なんで私に危害加えようとしてるのこの部下っ!? 怖いんですけどっ!」

「人聞きの悪い事言わないで下さい。パワハラで訴えますよ?」

「だからなんで危害加えようとしてる方が訴えるのっ? おかしくない?」

 しかしそんな魔王の泣き言など知ったこっちゃないか、siriは地面に垂れた魔王の鼻血を眺めつつ。

「しかし参りましたね? 不浄なる者である魔王の血が地面に垂れたとなれば、この地は向こう100年農作物が育たないどころか、向こう100年アスファルトしか生えてこなくなりますよ?」

 因みに言うまでもないが、魔王の血が垂れたのはそのアスファルトの上である。


 ――と。


「あの……なんかよくわかんないけど、ありがとう」

 とsiriと魔王の会話の間に入り込み、心配そうに魔王の顔を覗き込んできたのはあの美人ミニスカサンタであった。

「あいつらさ、なんかずっとしつこくて困ってたんだよね。とにかく助かったよ」

 とミニスカサンタが微笑みかければ、魔王も「フフッ」と笑い。

「お役に立てたようでなによりだ」

 ミニスカサンタはそんな魔王の鼻に視線を向け。

「鼻血は? 大丈夫そう?」

「あぁ問題ない。いつでも好きなように出せる」

 自信満々に答える魔王だが、ミニスカサンタは目をパチクリさせて。

「え……いや、出る出ないの心配したんじゃないんだけど……。でもまあそれなら平気そうだね?」

「うむ」

 と魔王が返事をしたところで、見計らっていたかsiriが魔王に耳打ちをする。

「でしたらマオー。そろそろ本題に……」

「おお、そうであった」

 ここで魔王はミニスカサンタへと改まって向き直り。

「お嬢さん。実は我々は貴女に用があってこのような行動に出たのだ」

「あたしに?」

 ミニスカサンタが頭に疑問符を浮かべるも、魔王は両肩をヒョイと竦め。

「心配する必要はない。簡単な質問に答えてもらうだけで良い」

「え? ……うん。別にそれくらいならいいけど――あ、そうだ! それならさ、どっかお店に入らない? あたしもちゃんとお礼したいからさ、奢らせてよ?」

 このミニスカサンタの申し出に魔王とsiriは顔を見合わせる。そして魔王はアゴに手を当て。

「ふむ。そういえば人間界に来てからまだ飲食店はどこにも入っていなかったな? siriよ、ここは彼女の申し出を受けよう」

「りょ」


 という訳で、3人は一番手近にあったケンタッキーフライドナルドという名前の牛丼屋に入店するのであった。

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