魔王とミニスカサンタ
――結局。水着を買う事を諦めた魔王とsiriは、再び町中へと戻り――何処を目指しているのかは良くわからないが、見たままで言えばそこら辺をプラプラとほっつき歩いていた。
そんな中で魔王が眉を顰めながら唸り、口を開く。
「うぅむ。どうも変だぞsiriよ?」
これに対しsiriは眉一つ動かさずに。
「……変? マオーの顔がですか?」
「いや、これは生まれつきだ。そうではなくて変だとは思わないかsiriよ。普通、魔界ならばこれだけ町をプラプラ歩いていれば、必ず美女が悪漢に絡まれているところに12回は遭遇しているところだが、人間界ではまだ1回も遭遇していないのだぞ? おかしいと思わないか?」
するとsiriは考え込むかのように握り拳を口に当て。
「なるほど。確かに変ですね……マオーの顔」
「クドイな。いい加減にしないと硬めの豆腐で殴るぞ?」
「やめて下さい。致命的な軽傷になります」
――という訳で硬めの豆腐で殴られるのは嫌だったのか、siriは首だけを左右に振り周囲を確認すると。
「確かにマオーの言う通りですね? クリスマス・イブなので町中にはサンタクロースの眷属であるセクシーなミニスカサンタが溢れ返っているのに、それを襲う暴漢がいないというのは魔界では考えられませんね?」
「え? ミニスカサンタってサンタクロースの眷属だったの? 私てっきりコスプレしちゃうくらいのサンタクロースガチ勢なのかと思ってた」
小首を傾げて頭に疑問符を浮かべる魔王だが、言うまでもなく眷属もガチ勢もどちらも間違いである。が、siriにはそんな事は関係なかったか。
「サンタクロースガチ勢? バカな……冗談は名前だけにして下さいマオー」
この時――エ口サイ卜のこめかみに青筋が走った。魔王は遠くを見詰めたまま。
「よしsiriよ。好きな方を選べ……木綿か絹ごしか」
「もう豆腐で殴るのは確定なのですね? では杏仁豆腐でお願いします」
「きょ、
いや、本人曰く女子ではなく生物学上はダニらしいのでスイーツダニが正しいのだろう。
――と。魔王とsiriがミニスカサンタで賑わう町中ではしゃいでいる時だった。
数いるミニスカサンタの中でも一際目を引く――ただ歩いているだけなのに男女問わず、全員が振り返るほど顔立ちとスタイルの良さを誇るミニスカサンタが魔王とsiriの隣を横切った。後に――
「ねーねー彼女ぉ~。アルバイトでも待ち合わせでもないのにクリスマス・イブにそんな格好で町中うろつくなんてナンパ待ちでしょ? ならさーオレ達と遊ばない?」
「ヒャッハーッ! ね? ね? カラオケだけでもいいからさ。ど? どう?」
と言いながら美人ミニスカサンタを挟み込むようにして取り囲む、12月なのに裸体に革ジャンのモヒカン男とソフトモヒカン男。
「……」
しかしミニスカサンタは二人の声が聞こえていないどころか、姿も見えていないかのように真っ直ぐ前を見たまま進んで行く。
「なにぃー? ちょっとさぁ、さっきからずっとシカトじゃん」
とモヒカン男。
「とりあえず1回止まって話だけでも聞いてよ」
とソフトモヒカン男が強引にミニスカサンタの肩を掴み、その動きを止めた。
――瞬間だった。
ミニスカサンタが腕を上げながらソフトモヒカン男の手を払い、その勢いで振り返る。
「うるっさいなっ! あたしはアンタ達になんか用はないって何回言えばわかんのよっ!」
鬼の形相で怒鳴る彼女だが、モヒカン達は涼しい顔で。
「えー? でもさぁ、意味もなくそんな格好しないでしょ?」
「って事はさぁ、やっぱ男誘ってんじゃないのぉ?」
「ちがっ、あたしはそんなんじゃないっ!」
――と。
「彼女の言う通りだ」
魔王だった。突然の声にミニスカサンタとモヒカン達が魔王へと視線を送れば。魔王は両腕を組んで口角を釣り上げる。
「彼女はサンタクロースガチ勢だからミニスカサンタの格好をしている。いわば彼女にとってそれは普段着……クリスマスなど関係ないっ! その格好でしか町をうろつかないのだっ!」
「そんなワケあるかマオーッ!」
今度は別角度から――siriだった。全員がそちらを向けば、なんか良くわからない、恐らく名もないカッコイイポーズをしたsiri。
「彼女はサンタクロースの眷属。故にイブとクリスマスだけは仕事をする363日自宅警備員なのだっ!」
なんか台無しだった。
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