海の魔王

 うっかりシャア専用車両や女性専用車両に乗ってしまうハプニングやアクシデントに遭いながらも、エ口サイ卜とsiriは無事目的地に辿り着いていた。


 その目的地とは――結局海だった。


「ほぅ? これが人間界の海か……」

 言いながら浜辺に体育座りをする魔王にsiri。そして魔王は波の音に耳を傾けつつ。

「美しいものだなsiriよ。たった2匹のリヴァイアサンで埋め尽くされている魔界の海とは大違いだな?」

「ですねマオー。しかし人間界の海は、たった2匹のサーファーで埋め尽くされてしまうらしいです」

「デカ過ぎじゃない? それだと波に乗れないからサーファーとは呼べないのでは?」

 魔王の意見は尤もらしく聞こえるが、実際突っ込むところはそこではない。


 しかし当の本人はそんな事はお構いなしか。

「おっと……黄昏ている場合ではなかった」

 一体どの辺りが黄昏ていたのかは謎だが、魔王は立ち上がると尻に付いた砂を両手で払い。

「siriよ。我々は海を見に来たのではない、水着を買いに来たのだ。早速『海の家』に行って水着を購入するぞ」

 するとsiriも立ち上がり、siriの尻に付いている砂を両手で払っているのかと思いきや、良く見るとそのままその砂を魔王の尻に付けつつ。

「残念ですがマオー。海の家は夏しか営業していないのです」

 因みに先に言っておくと、現在は夏と呼ぶにはちょっと早いクリスマス・イヴである。

 なので魔王は眉を顰め。

「何っ? そうなのか? では『海の家』ではなく『海の自宅』はどうなのだ?」

「海の自宅も夏しか営業していません」

「では『海の自宅警備員』は?」

「それは水属性のニートです」

「左様か……」

 魔王はアゴに手を当てると「う~ん」と唸る。


 しかしすぐに――

「因みに火属性のニートは?」

「火属性のニートは『海のひきこもり』です」

「そっちが変わるのっ!?」

 目を丸くする魔王と死んだ魚の目のsiri。……だが魔王は挫けず。

「ふ、ふつう火属性のニートならこう――『海』の方が変わって『紅蓮の自宅警備員』とかじゃないの?」

「紅蓮の自宅警備員は妹属性のニートです」

「それ属性違いじゃん! ただのオタクの嗜好でござるっ!」

 しかしやはりというか――siriはAIらしく全くの人間味を見せずに。

「火、水、土、風、妹」

「ホラやっぱりおかしいよ! 嫌だよ私! 急にバトル系に路線変更して火属性、水属性、土属性、風属性の強敵を倒した後に最強の妹属性のラスボスと戦うのっ!」

「大丈夫お兄ちゃん。その時は私が設定的に妹になって戦うから♡」

 と力強く握り拳を魔王に見せる無機質なsiri

「この妹、頼もし過ぎるんですけどもッ!? 推せるっ!!」

 と何故か自分も握り拳を作る魔王であった。

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