魔王と女性専用車両

 渋谷を抜け出した魔王とsiriは明確には何処を目指しているのかわからないが、とりあえず電車に乗って移動を開始していた。


 列車の混雑状況はと言えば――混んでいるとは言えないが、一概に空いているとも言えない……そんな状況の車両であった。そしてその車両の端の席に肩を並べて腰を下ろしている魔王とsiri滅裂だが――この時。魔王はある違和感を覚えていた。


「のうsiri。どうも先程から人間達にやたらと見られているような気がするのだが……私の気のせいであろうか?」

 両腕を組んだままどっしりと構えている魔王は顔を向けず肩口にsiriへと問うが、siriも正面を見据えたまま。

「お察しの通りですマオー。計測してみましたが実はこの車両に乗っている客の内、全員が1回以上マオーに視線を送っています。多い者になると4回以上は睨んでいますね」

「そ、そんなにっ? 一体何故だ。私は魔界を追放されて今日人間界に着いたばかり……故に人間界に厄介なファンや厄介じゃないストーカーなんている訳がない。となると――siriよ。どこか私におかしいところはあるか?」

 と言って体をsiriへと向ける魔王だが、siriは前を見詰めたまま至って冷静に。

「あたまの中」

「それはお互い様だろうっ! そうではなくて格好の話だ格好のっ!」

 とがなる魔王だが残念ながら特におかしいところが見当たらないので、どうやら残念なのは本当に頭の中だけのようだ。


 しかし残念は置いておくとして、実はsiriはちゃんと分析もしていたか。

「因みにですがマオー。参考までに申しておきますと、この車両の乗客は我々を除くと全員が女性です」

「なっ!?」

 魔王は慌てて辺りを見渡す。確かに年齢にバラつきこそあるが、目が合う人物目が合う人物……全員が全員女性であった。

「乗っている客が全員女性。と、という事は……この車両が噂に聞いたシャア専用車両か……?」

 するとsiriは無表情のまま片手でコメカミを押さえ。

「ご名答。今、魔界ネットにアクセスして確認してみたところ、シャア専用車両で間違いないと確認が取れました。因みに乗車時に私が視認した時この車両はちゃんと真っ赤でした」

 この言葉に魔王はワナワナと震え。

「そういう事だったのか。つまりこの車両の客は我ら以外全員シャア。だからよそ者である我々を睨んでいたのだな? 『何故シャア以外の者が乗っている』と」

「ですね」

 ここで魔王は決心するかのように一度頷くと。

「となればsiriよ。すぐに隣の車両に移るぞ」

 と言って立ち上がる魔王に、siriは見上げるようにして顔だけを向け。

「りょ。隣の車両に移って、名前をシャアに変えてこの車両に戻ってくるのですね?」

「そういう事だ! さすれば何も問題なかろう?」

 ドヤ顔で述べる魔王だが、こいつらが魔界を追い出された理由がほんのわずかだが垣間見えた瞬間だった。


 そして何も知らずに隣の車両に移動した魔王だが、隣の車両が女性専用車両であったため、余計に白い目で見られる魔王であった。

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