恋愛で学ぶ酸化還元反応

九戸政景

本文

「私と……付き合ってください!」



 とある高校の裏庭、満開の桜の木の下で大津おおつ志希しきが顔を赤くしながら頭を下げる。目の前に立つ二堂にどう仕葉つかはが驚いていたが、やがて照れ臭そうに頬を掻いた。



「は、はは……告白なんてされたことないから照れるな。でも、嬉しいよ」

「そ、それじゃあ……!」

「こちらこそよろしく、大津。こんな彼氏でもよければお前のそばにいさせてくれ」

「う、嬉しい……!」



 志希が仕葉に抱きつく。嬉し涙を流す志希の姿を仕葉は愛おしそうに見た後、幸せそうな顔で抱き締めた。


 ある日順調に交際を続けていた志希は男友達である猿川硫路に教室でその話をしていると、硫路は呆れた様子で苦笑いを浮かべた。



「お前、本当に彼氏にぞっこんだよな。まあ、俺も他人の事は言えないけどさ」

「バスケットボール部の水野素子さんだよね? 背も高くてスタイルもいいから羨ましいなぁ。おまけに成績優秀で人当たりも良い。猿川君には本当にもったいないなぁ」

「うるさいな……」



 硫路が答えていた時、硫路の制服のポケットの中の携帯電話が震えだした。



「ん、なんだろ……」

「電話じゃない? 出てきて良いよ」

「わかった」



 志希に見送られながら硫路は教室を出ると、携帯電話の画面を見た。画面には素子からのトークアプリの通知が表示されていて、アプリを開くと誰もいないところで見てほしいというメッセージとその下には数分程度の動画が投稿されていた。



「なんだろ……」



 硫路は言い知れぬ恐怖と不安を感じていた。そして男子トイレの個室にこもると、黒斗は動画を再生したが、そこには目を疑うものが映し出されていた。



「な、なんだよこれ……!」



 動画には生まれたままの姿になった素子が映っており、同じように裸体の男性がその肩を抱いていた。



「ば、バスケ部の顧問の塩川じゃないか!」



 硫路が驚きと悲しみを同時に感じる中、素子は塩川黒斗から身体を擦り付けられながら幸せそうな顔をした。



『ごめんね、硫路君。もう君じゃダメなの』

「も、素子さん……」

『塩川先生は既婚者だし、こんな関係はダメなのはわかってるの。でも、私はもう塩川先生と関係を持っていて、離れられないくらいに愛している。だから、別れましょ』

「もとこ……さん……」



 硫路が涙を流す中、素子と黒斗は身体を絡ませ合い、数分の後に動画は終わりを迎えた。



「はあ、はあ……もと、こさん……」



 荒く息をしながら悲しみの涙を流した事で硫路の目元が真っ赤に腫れ、制服が涙で湿る中、便器の下の床には液体がポタリポタリと垂れ続けていた。

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恋愛で学ぶ酸化還元反応 九戸政景 @2012712

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