12.村で起きている問題への対処方法を考えよう(2)
それじゃあここからは理屈の話。
まず昨日の聞き取りの結果わかったことだけど、今の狩猟班には余力がある。
狩猟班に割り振られた人員九名。どうやら彼らは、連日の狩猟によってかなり狩りに慣れてきているようだった。
魔物の狩猟が始まったばかりのころは、狙う獲物を上手く見極められなかったり、誘導に失敗して取り逃がしたりすることもあった。
上手いこと魔法を発動させても、仕留めるに至らず逃げられてしまうことも少なくない。こうなると最初からやり直し。内臓肉に群がる魔物を厳選する、魔物ガチャから始めなければならなかった。
そのうえ、そもそも内臓肉を撒いても魔物が現われないこともある。ようやく現れたとしても、ほんの小さなカピバラサイズの鼠型魔物が一頭。これが狩れるだけでもまだましで、なんなら夜まで粘っても狩りを始めることすらできない日さえあった。
おかげで、その日の夕食は首狩り草の浮いた塩味だけのスープ。何度かそういう日があったせいで、前日に狩った肉を念のため翌日に少し残しておく、という習慣までできたくらいだ。
しかし、最近はこういったことがない。
狩猟班が慣れたおかげか、内臓肉に群がる魔物を見逃さなくなったし、狙い目の獲物を見極められるようにもなった。
誘導失敗も随分と減り、上手く村へと迷い込ませれば取り逃がすこともなく仕留められ、日々の食卓には安定して肉が供給され始めていた。
そのうえ運が良ければ――本当に運が良ければだけど、時には魔物を二頭狩ってくることすらあるのである。
狩猟を終えて屋敷へと戻ってくる時間も、以前よりずっと早くなった。
魔法で壊れた家々の修繕、解体、薪作りをしてもなお、今は日が暮れる前には村へと戻って来て、魔物の解体作業をしていることが多い。
カイルや他の狩人たちからの話しぶりからしても、狩猟に余裕があることが窺える。となると――――。
運が良ければ、ではない。
やり方次第で、今後は安定して二頭狩りに挑めるようになるはずだ。
現在の狩猟班は、狩猟以外にもいくつかの仕事がある。
家々の修繕と解体、薪割り、魔物の解体作業、罠の設置と解除。
このうち、罠の解除だけは朝一番。それ以外は、すべて狩猟のあとの作業だ。
当たり前だけど、これらは決して楽な作業ではない。丸太づくりの家は重く頑丈で、直すにも壊すにも大量がいる。薪は屋敷の人間四十六人が、その日一日に使うだけ必要だし、罠は村全体に張り巡らせなければ意味がない。
どれも時間がかかるし、労力もかかる。だけど村に赴かなければ行えない作業のため、狩猟班に任せるよりほかになかった。
この作業、今後手が空きはじめるだろう採集班の男衆に任せてはどうだろう?
現在の狩猟班の余裕感に加えて、いくつかの仕事の巻き取り。これでもう一頭の狩りに挑む余裕を捻出できるだろうと仮定する。
これで、狩猟で得られる魔物が二頭になる。
現在の一頭の狩猟で得られる食糧が、例の数字に換算して『20』。同じだけの大きさの魔物を狩ると想定して、二頭狩りなら『40』だ。
必要な数字は『69』なので、しかしまだ残り『29』――魔物二頭分ほど足りていない。
果たして、この二頭をどうやって稼ぐか。
私の理屈が正しければ、打てる手がないわけではなかった。
さて前提。そもそも、現在の狩りは村を狩場として行っている。
草原の魔物を村までおびき寄せ、慣れ親しんだ地の利を生かして遮蔽物のある場所まで誘導。発動する魔法を防いでからの討伐だ。
このルートは厳密に決められ、狩猟班の中で共有されている。東西南北、どこから魔物が入ってきたらどの道を通り、どこに誘導するか。これを決めておかないと、予期せぬ魔法に巻き込まれたり、とどめを刺すのに間に合わなかったりするためだ。
基本的に、誘導先は入って来た場所から比較的近い場所に用意する。
馬で通り抜けられて、魔物を煙に巻き、村で待機している仕留め役の狩人たちが先回りできる位置。通るルートは混乱を避けるため、他の入り口のルートとは被らないようにしている。
このことは、狩猟班の全員が頭に叩き込んでいる。
また、狩猟班は九人いるものの、一度の狩猟にこれだけの人数は必要ない。
実際に狩りに参加するのは五人か六人。一人が誘導役を担い、残りは身を潜めて待ち伏せをするのだ。
魔物に気取られないためにも、身を潜める人間はあまり多くない方が良い。過剰な人員は、かえって邪魔にさえなってしまう。
このため狩猟班は、今は日当制で狩りをしているのだという。
その日の狩猟当番は狩りに出て、残りの人員は雪かきや罠の準備など。あるいは前日に終わらせられなかった家の修繕、解体などもやっているのだという話。狩りに失敗したときや、手助けが必要そうなときには非番の人員もサポートに回るらしいけれど、最近ではそれも少なくなったという。
狩猟班の狩猟以外の仕事を巻き取れば、非番である三、四人はやることがなくなるということだ。
誘導役を買って出られる護衛は四人。魔物の侵入口となる場所は東西南北にあり、誘導先もそれに応じて四か所ある。誘導ルートも四通りあり、どのルートを通るかは東西南北どこから入ったかによって変わる。
そして、これは鳴子の音によって判別できる。
一方が北から侵入するように誘導し、もう一方が南から侵入するように誘導した場合でも、どちらがどのタイミングで来てどこに向かうかを、村の中にいる狩人たちは瞬時に判断するだけの能力がある。
あくまで机上の空論。実体を伴わない、理屈の上だけの話。
だけど、理論上は紛れもなく――――できるはずなのだ。
二班に分けての、魔物の同時並行狩りの実行が。
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