17.【実績解除】初心者ハンター -魔物を一匹以上倒す(2)
この可能性を考えていなかった、とは言わない。
むしろ、まあまあの確率で起こりうることだとは思っていた。
それでも彼らに教えを受けたのは、やっぱりここに一番可能性があると思ったからだ。
冬を前に、すでに草原からはほとんどの獣が姿を消している。採集できる植物もわずかな今、手を打つ手段があるとしたら魔物の他には考えられない。
ここに、どうにか活路を見出したかった。もとより彼らの生活様式を、完全にトレースする必要はない。なにかしらの打開策につながる、手がかりだけでも良いのだ。
少しのとっかかりでいい。それだけでも見つけられれば、今の私たちには大きな意味があるはずだった。
しかし、現実とは非情である。
この手探り感、まさに初見のゲームという質感。楽し……いや楽しんでいる場合じゃないわさすがに。
ゲーマー精神はいったんステイ。ゲーマー精神に則ると、こういうギリギリの状況ではすぐ非人道プレイに走っちゃうからね。
なので一度気持ちを落ち着けて。
私は狩りに同行させていた護衛に歩み寄ると、苦い顔を作って問いかける。
「――――カイル、あなたとしてはどう思う?」
問いながらもちらりと横目で見るのは、狩りの獲物を下ろす先住民たちと、恨めしげな顔の村人たちだ。
狩りの成果は、
これが数時間の狩りで得られるなら、村の食糧難など一気に解決となるだろう、が。
「……同じ方法で狩りをするのは、この村では難しいでしょうね」
カイルと呼ばれた護衛は、私と同じだけ苦い顔でそう答えた。
護衛護衛と言っているけれど、私だってもちろん彼らの顔と名前くらいは把握している。
王都を出てからこのノートリオ領へ来るまで、進路上の領地の歓待に足止めされつつ約一か月。これだけあれば、それぞれの護衛の得意分野なんかもおおよそ見えていた。
このカイルは、護衛たちの中では一番とっさの目端が利く。先日の魔物襲撃の際に、一人馬を飛ばして村の外に回り、撃退劇に一役買ったのも彼だった。
弓の扱いも悪くない。狩りには適任だろうと今回同行させたのだけれども、どうにも成果は芳しくないらしい。
「彼らのやり方はかなり洗練されています。個人の技術はもちろん、連携の取り方も――蛮族と呼ぶのは、失礼なくらいに」
声を落とした彼の言葉に、お、と私は視線を向ける。
どうやら狩りに同行したことで、彼は先住民への認識を改めようとしているらしい。
同じ土地に暮らす以上、友好関係を結ぶにしろ、敵対するにしろ、先住民との付き合いは避けられない。獣を相手にするでもなし。同じ人間同士、甘く見れば痛い目を見るのはこちらの方だ。
見下していては友好も築けないし、敵対すれば彼らに足元をすくわれる。蛮族という考えを捨て、相手を認めはじめているのは、私から見れば良い傾向だと言えた。
良い傾向ではあるのだけども。
「幼獣を狩るのが彼らのやり方ですが、そもそも俺たちには見分けがつきません。そのうえ、一人を囮に魔物を誘導するのは腕が要ります。誘導自体は、騎士団の魔物討伐でもやってはいるので、俺でもできないことはないですが……」
けど、と言って、カイルは難しそうに目を伏せる。
頭の中で戦闘のシミュレーションでもしているのだろうか。しばらく考えるように口をつぐんでから、彼はどうにもならなそうなため息をついた。
「魔法発動『前』に仕留めるのが、どうしても難しい気がします。彼らの狩りは、一人だけでは成り立たない。連携を取るには、村の者たちでは技術が未熟すぎます。それ以前に、幼獣の見分けがつかない時点でどうしようもないのですが……」
話を聞く限り、誘導が一番難しい役どころだろう。とは思っていたけれど、それは仕留め役に技術が要らないというわけではない。
誘導された魔物に飛び掛かるタイミングを見極める必要もあるだろう。誘導に間違いがあったとき、臨機応変な対応もいるだろう。
そして魔法発動の予備動作が始まってしまえば、発動前に確実に仕留めるのは絶対だ。連携が上手くいかず、仕留め役が少しまごつきでもしようものなら、それだけで狩りは失敗。誘導役はおそらく、魔法の直撃を食らうことになるのだろう。
尻込みせず、的確に、限られた時間内に獲物にとどめを刺すというのは、口で言うほど簡単なことではない。
冬までの時間がない中で、付け焼刃で真似をするには、あまりにも危険な方法だった。
「草原で狩りをしていては、魔法から逃れるすべもありません。騎士団で討伐をするときは、意図的に障害物のある場所を選んで魔法を発動させるようにしているくらいです。多少の物陰さえあれば、魔法の被害は軽減できますから」
しかし、草原にそんな便利な場所はない。せいぜい、多少の岩が転がっているくらいだ。
だいたい魔法を発動した魔物の体には、瘴気の毒が回ると聞いたばかり。食用とするためには、なんとかして魔法発動前に仕留める方法を考えないといけないのだ。
でもそうなると、幼獣と成獣の見極めもしないとだし、狩りの連携も取らないとだし、失敗した時のリスクが大きすぎる。
村人も端っこで震えていて、どう考えてももう一度やりたがらないだろうし。
うううううむ、堂々巡り。こうなったら――――。
「意見ありがとう。――わかったわ、ではこうしましょう」
私はそう言って頷くと、顔を上げて前を見た。
前と言うのはつまり、獲物を地面に横たえ解体作業に入ろうとしている先住民たちのこと。
忙しそうに立ち働く彼らに視線を向け、私は大きく息を吸う。
「保留!!!!!!」
考えてもわからないものはしゃーなし!
時間を置けば良い案が浮かぶかもしれないし、ここはいったん後回しだ。
急ぎの判断は死への近道。RTAやっているんじゃないんだし、時間がないとはいえ一分一秒さえ惜しいということはないからね。
なので私は、気持ちを切り替えて、ぱちんと両手を大きく打ち鳴らした。
「それより目の前のことだわ。せっかくの機会なのだから、今はとりあえず魔物の解体を見せてもらうといたしましょう!」
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