第2話
現実世界に戻った俺たちは、データを持ってドクター・ヴァンデンバーグの研究所に急行した。任務は成功し、貴重なデータを手に入れたものの、ヴィクター・クロウリーとの戦闘の余韻がまだ残っている。
「これが回収したデータだ」と俺はUSBドライブをドクター・ヴァンデンバーグに手渡した。
ドクターは素早くデータを端末に接続し、解析を始める。巨大なスクリーンに次々と情報が表示されていく。俺とリサはその様子を見守りながら、緊張感を隠せない。
「よし、解析が完了したわ」とドクターが口を開く。「このデータには、違法に使用されている夢の技術に関する詳細な情報が含まれているわね。」
リサがスクリーンを見つめ、「これでエヴァン・ストーンの手がかりが掴めるかもしれない」と期待を込めて言う。
「確かに、このデータには彼の名前もいくつかのプロジェクトに関与している記録がある。特に『プロジェクト・オブリビオン』というプロジェクト名が目立つ」とドクターが説明を続ける。
「プロジェクト・オブリビオン…それは何だ?」と俺は尋ねる。
「どうやら、夢の技術を利用して記憶を消去し、改竄する実験のようね。エヴァン・ストーンがその中心人物だった可能性が高いわ」とドクターは答える。
その言葉に俺は驚きを隠せなかった。エヴァン・ストーンが俺の記憶とどう関係しているのか、ますます気になる。
「エヴァンが俺の記憶に何をしたのか、真相を突き止める必要があるな」と俺は決意を新たにした。
リサが「でも、次のステップはどうする?」と問いかける。
「まずは、このプロジェクト・オブリビオンに関する詳細な情報を探る必要がある。そのためには、夢の中でさらに深く潜り、エヴァンの潜在意識にアクセスするしかない」とドクターが提案する。
「もう一度、エヴァンの夢の中に入るってことか?」と俺は確認する。
「そうよ。でも今回は、より深い層に潜る必要がある。危険は増すけど、その分得られる情報も大きいはずよ」とドクターが答えた。
俺はリサと目を合わせ、頷いた。「やるしかないな。
ドクター・ヴァンデンバーグの研究所は静まり返っていた。深夜の静寂の中で、俺たちは新たな任務のために準備を整えていた。今回は通常の夢の層を超えて、エヴァン・ストーンの潜在意識の深層にアクセスする必要がある。
「これが新しい装置よ。『サブリミナル・インターセプター』と名付けたわ」とドクター・ヴァンデンバーグが銀色の精巧な機械を示した。
装置はスリムで、先端に細かなセンサーが取り付けられている。中央部には液晶ディスプレイがあり、各種データがリアルタイムで表示されるようになっていた。
「この装置を使えば、通常の夢の層を超えて、潜在意識のさらに深い部分にアクセスできるわ。ただし、リスクも高まる。時間の流れが現実とは大きく異なるし、精神的な負担も増す」とドクターは説明を続ける。
「理解している。リスクを取る価値はある」と俺は頷いた。
リサも同じように装置を手に取り、「これでエヴァンの本当の目的が分かるかもしれない」と力強く言った。
俺たちは椅子に座り、ドクター・ヴァンデンバーグの指示に従って装置を装着した。頭部にセンサーを取り付け、腕にモニターを固定する。装置が稼働し始めると、微かな振動が体全体に伝わってきた。
「リラックスして、深く呼吸して。装置があなたたちの脳波を調整し、潜在意識の深層へと導くわ」とドクターが優しく指示を出す。
俺は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。装置のディスプレイに、俺たちの脳波や心拍数がリアルタイムで表示されているのが分かる。データは安定している。
「準備が整ったわ。これから潜在意識の深層にアクセスする。現実とは異なる時間の流れに注意して」とドクターが警告する。
「了解。行こう、リサ」と俺はリサに合図を送った。
「行きましょう、アレックス」とリサも応じる。
装置が作動すると、周囲の景色がゆっくりと変わり始めた。目の前に広がるのは、現実とは異なる幻想的な風景だった。俺たちはエヴァン・ストーンの潜在意識の中に入り込んだのだ。
「ここがエヴァンの深層か…」と俺はつぶやく。
目の前には、異様に巨大な構造物がそびえ立っていた。まるで巨大な迷宮のようだ。壁は不気味に光り、微かな音が響いている。これは、普通の夢の世界ではない。ここにはエヴァンの最も深い秘密が隠されているに違いない。
「注意して進もう。何が待ち受けているか分からない」とリサが緊張した声で言った。
「分かってる。慎重に行こう」と俺は答え、リサと共に迷宮の奥へと歩みを進めた。
迷宮の中は複雑で、道が幾重にも交差している。壁には奇妙な模様が浮かび上がり、時折、遠くから不気味な声が聞こえてくる。これはエヴァンの心の奥底に隠された恐怖やトラウマの具現化だろう。
「この迷宮はエヴァンの心の防衛機制の一部だ。彼が隠したい秘密があるはず」とリサが推測する。
「その通りだ。ここを突破すれば、真実に近づける」と俺は同意し、歩みを進めた。
突然、目の前に現れたのは巨大な扉だった。その扉には、奇妙なシンボルが刻まれている。
「ここが核心部の入口かもしれない」と俺は言った。
「そうね。でも、簡単には開かないでしょう。何か手がかりを探さないと」とリサが答える。
俺たちは周囲を注意深く調べ、扉を開けるための手がかりを探し始めた。壁には謎めいた文字が刻まれており、その解読が必要だと感じた。
「この文字…エヴァンが残したメッセージかもしれない」と俺は言った。
「解読する必要があるわ。急ぎましょう」とリサが答えた。
巨大な扉の前で俺とリサは立ち止まり、周囲を注意深く観察していた。扉に刻まれた奇妙なシンボルと文字が、我々の進行を阻んでいる。エヴァン・ストーンの潜在意識の奥底にあるこの場所には、彼の記憶と秘密が隠されているに違いない。
「この文字…どうやら古代の言語のようだわ」とリサが言った。
「エヴァンが意図的に隠した手がかりか。解読しないと進めないな」と俺は答えた。
俺たちは文字を注意深く読み解くために、データベースと照らし合わせながら作業を進めた。リサの指が素早く端末を操作し、文字の意味を解析する。
「このシンボルは『記憶』を意味しているわ。そしてこの文字列は…『失われた時間』。どうやらエヴァンは特定の記憶をここに封じ込めているみたいね」とリサが説明する。
「つまり、この扉を開ければエヴァンの隠された記憶にアクセスできるってことか」と俺は言った。
「その通り。でも、鍵となるパスワードが必要ね。何か手がかりがあるはずよ」とリサが答えた。
俺たちは周囲をさらに調べ、壁に刻まれた別の文字列に気付いた。それはエヴァンの過去に関する断片的な情報だった。
「ここに書かれているのは…『家族』『約束』『喪失』。エヴァンの過去の出来事がヒントかもしれない」と俺は推測した。
「家族…エヴァンが大切にしていた存在ね。もしかしたら、彼の家族に関する何かがパスワードかも」とリサが答える。
俺たちはエヴァンの家族に関する情報を集めるために、さらに探索を続けた。迷宮の奥に進むと、壁に刻まれた家族の肖像画が見つかった。それはエヴァンの幼少期の記憶を反映しているようだった。
「ここに書かれているのは…『エヴァンと彼の母親』。もしかして、母親の名前がパスワードかも」とリサが推測した。
「試してみよう」と俺は言い、母親の名前を扉のパネルに入力した。
「エリザベス・ストーン…」パスワードを入力すると、扉が静かに開き始めた。内部には、さらに深い記憶の層が広がっていた。
「やったわね。これで次のステップに進める」とリサが微笑んだ。
「ここからが本番だ。エヴァンの記憶の核心に近づくぞ」と俺は決意を新たにした。
扉の向こう側には、エヴァンの最も深い記憶が待ち受けていた。俺たちは慎重に進み、異様に静かな廊下を歩いていった。壁には過去の出来事がフラッシュバックのように映し出されている。
「ここは…エヴァンが失ったものすべてを映し出しているみたいだ」とリサが言う。
「彼が何を失い、何を守ろうとしているのか、すべてがここにある」と俺は答えた。
突然、目の前に巨大なホールが現れた。中央にはエヴァンが一人佇んでいた。彼は幼少期の姿で、悲しげな目をしてこちらを見つめている。
「エヴァン…」と俺は静かに呼びかけた。
エヴァンの幼少期の姿はゆっくりと振り返り、「君は誰だ…?」と問いかけてきた。
「俺はアレックス・ライアン。君の記憶を追ってここに来た。君が何を隠しているのか知りたい」と俺は答えた。
エヴァンの目に一瞬の戸惑いが浮かぶが、すぐに決意の色が宿った。「君が本当に知りたいのなら、すべてを見せてあげる。でも、その前に…君自身の心の準備をしておくことだ」と彼は言った。
「覚悟はできている。見せてくれ」と俺は力強く答えた。
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