【完結】「潜在意識の迷宮」
湊 マチ
第1話
目の前には巨大なビル群がそびえ立ち、俺はその中の一つのオフィスに向かう。
「目標は上階のデータベースにあるファイルだ」と、自分に言い聞かせるように呟く。俺はエレベーターに乗り込み、上階へと急ぐ。
エレベーターの中で、俺は一瞬、失われた記憶の断片がフラッシュバックする。微かな女性の声、温かい笑顔。だが、それが誰なのか、どうしてそんな記憶があるのかはわからない。俺はその思考を振り払い、目の前の任務に集中する。
ドアが開くと、そこには警備員が待ち構えていた。夢の中でも、敵は現実と同じように存在する。俺は瞬時に動き、警備員の一人を素早く無力化する。残りの二人も同様に処理し、オフィスの中に入る。
データベースの前に立ち、パスコードを入力する。指先が触れると、スクリーンが光り、目的のファイルが表示される。俺はデータをダウンロードし、任務の成功を確信する。
「任務完了。戻る時間だ」と、独り言を呟きながら、俺は夢の世界からの脱出を準備する。だが、その瞬間、背後から誰かの気配を感じた。振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。
「アレックス・ライアン、やっと見つけた」と男は言う。その言葉に驚きつつも、俺は冷静を保ち、男に対峙する。
「誰だ、お前は?」と俺が尋ねると、男は微笑んで答えた。「俺はエヴァン・ストーン。君の失われた記憶に関わる人物だ」
その瞬間、俺の頭の中にまたあの断片的な記憶がよみがえる。エヴァンの言葉に混乱しながらも、俺は彼に問いかける。「俺の記憶に何があるんだ?」
エヴァンは静かに答えた。「それを知りたければ、さらに深く潜る必要がある。君が失ったものを取り戻すために」
俺はその言葉に驚きながらも、決意を新たにした。現実に戻るための装置を作動させ、エヴァンの姿が遠ざかるのを見ながら、俺は深い思索にふけった。
目が覚めると、俺はミッションルームの椅子に座っていた。夢の中で得たデータは手元にあり、任務は成功だ。しかし、エヴァン・ストーンの言葉が頭から離れない。
「失われた記憶…俺は一体何を忘れているんだ?」
目覚ましの音が鳴り響き、俺はベッドの上で目を覚ました。昨夜の任務の余韻がまだ残っている。エヴァン・ストーンという謎の人物が、俺の記憶に何か関わっていることを考えると、心は落ち着かない。
シャワーを浴びて、コーヒーを入れながら、俺は昨日のことを思い返す。データは無事に持ち帰ったが、エヴァンの言葉が頭から離れない。「さらに深く潜る必要がある」…一体何を意味しているのか。
カウンターに座り、コーヒーをすすりながら、通信端末に手を伸ばす。今日のスケジュールを確認すると、新たな任務が入っている。今回はパートナーのリサ・マクレーンと共に進めることになっている。リサは夢の世界でのガイド役として信頼できる仲間だ。
ドアを開けると、リサがすでに待っていた。彼女は短髪のブロンドで、鋭い眼差しが印象的だ。
「おはよう、アレックス。昨夜の任務はどうだった?」と彼女は尋ねた。
「成功だったが、ちょっとした問題があった」と俺は答え、エヴァンのことを簡単に説明した。
リサは少し考え込み、「それは厄介ね。でも、今は新しい任務に集中しましょう。ドクター・ヴァンデンバーグが待ってるわ」と言った。
俺たちは車に乗り込み、研究所へと向かう。途中、リサと話しながら、昨日の出来事を整理した。
研究所に到着すると、ドクター・ミラ・ヴァンデンバーグが迎えてくれた。彼女は夢の技術を開発した科学者で、俺たちの任務に欠かせない存在だ。
「おはようございます、アレックス、リサ。新しい任務の準備が整っています」とドクターは言う。
研究室の中に入ると、巨大なモニターが壁にかかっており、任務の概要が表示されていた。今回の目標は、ある企業の内部データを夢の世界で回収することだ。
「この企業は、夢の技術を違法に利用している疑いがあります。あなたたちの任務は、証拠を集めてくることです」とドクター・ヴァンデンバーグが説明する。
リサが詳細を確認しながら、「夢の中での敵対者は?」と尋ねる。
「主に企業のセキュリティシステムが自動的に敵として現れます。注意深く進んでください」とドクターは答える。
俺は準備を整え、リサと共に夢の世界へと入るための装置に横たわる。ヘッドセットを装着し、深呼吸をして心を落ち着ける。
「行くぞ、リサ」と俺が言うと、彼女も同じように準備を終えた。
「準備完了。行きましょう、アレックス」と彼女は微笑んだ。
装置が作動し、周囲の景色が変わり始める。再び夢の世界へと入る感覚が俺を包み込む。
夢の中に入ると、俺たちは巨大なデータセンターの中に立っていた。無数のサーバーが並び、その先にあるセキュリティルームが目標だ。目の前には警備ドローンが巡回しており、厳重な警備体制が敷かれている。
「データセンターか…。ここが目標地点ね」とリサが囁く。
「そうだな。まずはセキュリティルームに侵入して、システムを解除する必要がある」と俺は答えた。
俺たちは慎重に歩みを進め、警備ドローンの視線を避けながら進む。リサが手元のデバイスを操作し、警備システムの一部をハッキングして一時的に無効化する。
「今がチャンス。行こう」とリサが言う。
俺たちは素早くセキュリティルームに向かい、扉を開けて中に入る。部屋の中には巨大なモニターが並び、セキュリティシステムの操作パネルが設置されていた。
「ここからが本番だな。リサ、システムの解除を頼む」と俺はリサに指示する。
リサがパネルの前に座り、素早くキーボードを叩き始める。彼女の指先が滑るように動き、次々とセキュリティシステムを無効化していく。しかし、その瞬間、警報が鳴り響いた。
「警報!?何が起きたんだ?」と俺は驚く。
「誰かがシステムを守っているみたい。急いで、アレックス!」とリサが叫ぶ。
部屋の扉が開き、武装したセキュリティガードが突入してきた。俺は即座に構え、迎え撃つ準備をする。銃声が響き渡り、夢の世界での戦闘が始まった。
俺は素早く動き、近くの机を盾にして銃弾を避ける。反撃のタイミングを見計らい、セキュリティガードに向けて射撃する。敵は次々と倒れていくが、彼らの数は増え続ける。
「リサ、あとどれくらいかかる?」と俺は叫ぶ。
「もう少し…あと少しだけ…!」とリサは焦りながら答える。
その時、部屋の奥から一際大きな影が現れた。ヴィクター・クロウリーだ。彼は夢の世界での敵対者であり、俺たちの任務を妨害しようとしている。
「やはり来たか…ヴィクター」と俺は呟く。
ヴィクターは冷笑しながら、「アレックス、ここで終わりだ」と言い放ち、俺に向かって突進してきた。
俺はその攻撃をかわし、カウンターを狙う。激しい格闘が繰り広げられる中、リサがついにシステムの解除を完了した。
「アレックス、今だ!システムは解除したわ!」とリサが叫ぶ。
俺は最後の力を振り絞り、ヴィクターに強烈な一撃を放つ。彼は倒れ込み、静かに動かなくなった。
「やったか…?」と俺は息を切らしながら確認する。
「うん、成功よ。でも、急いでデータを回収しましょう」とリサが答える。
俺たちは迅速にデータをダウンロードし、任務を完了させる。夢の世界からの脱出の準備を整え、現実世界に戻るための装置を起動する。
「これで一歩前進だ。エヴァン・ストーンの謎に近づくための重要なデータが手に入った」と俺は心の中で呟く。
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