第24話


私がシャロンと恋人同士になって4カ月程が過ぎた。


その日も私はシャロンと一緒に薬草を採りに森に行った。

彼女に付き合っているので、薬草の知識が増えた。

魔力がないので煎じても薬になる事はないが、作り方も覚えてしまった。


代わりに、と言ってはおかしいかもしれないが、シャロンは私の歌う歌の歌詞を覚えてしまった。

寝る前や寛いでいる時に、私がシャロンの為に歌っているのを覚えたのだ。

残念ながらシャロンの音域は狭く完ぺきに歌う事は出来なかったが、それでも薬草を摘みながら鼻歌代わりに歌うには十分だ。

私はシャロンの鼻歌を聞きながらカゴを一杯にすべく手を動かしていた。


その時。


「シャロン。久しぶりだなぁ」


私はその声に薬草に伸ばしていた手を止めた。

顔を上げると、少し離れた所に男が一人立っていた。

栗色の髪。

背は私と同じくらいだろうか。


「ライリー、帰って来たのね?」


シャロンは嬉しそうな声を上げ、男に近寄った。

私は少し不快な気分になった。

あの笑顔は私のものなのに。


「あぁ、帰ってきた」


男は私をちらとも見ずに、近寄ったシャロンを抱きしめた。


「元気そうで良かったわ。今回は余りに長いので少し心配してたのよ」

「それは悪かったな」


二人は抱き合ったまま話す。

私はむっとして、二人の傍に近寄った。


「シャロン?」


私の声にシャロンは男から離れた。


「ぁ、レムス。紹介するわ。彼はライリー。あなたの希望を叶えてくれるかもしれない人よ」

「初めまして」


私は小さく頭を下げた。


「あんた、レムスってのか………」

「ん?ライリー、彼の事知ってるの?」


なにか考える様な表情になったライリーにシャロンが問いかける。


「ぁ、いや……」


ライリーは笑顔になって私に手を差し出した。


「よろしく、レムス。あんたは初めてかもしれんが、こっちはそうじゃない。元気になって良かったな」


私はライリーと握手しながら、その言葉の意味を問う為にシャロンを見た。


「彼があなたを引き上げてくれたのよ。ほら、崖の下から。そしてそのままあなたを家まで運んでもくれたの」

「あぁ、そういう事でしたか。その節は助けて頂き、ありがとうございました。おかげですっかり元気になりました」


私は笑顔を作ってライリーに謝辞を述べた。


「なんて事ないさ。他ならぬシャロンの頼みだったからな。俺が村にいる時で良かったよ」


ライリーは私の肩をばんばん叩いた後、シャロンの腰に手を回した。


「さぁ、薬草摘みなんて止めて家に帰ろうぜ。めし喰わしてくれ。腹減ってるんだ」


シャロンはくすくす笑って私を見た。


「ライリーってば、いっつもこうなの。レムスも帰りましょう」


シャロンは私に手を伸ばした。


「ぉや?あぁ、そう言う事か。なるほどな。半年位になるのか、うんうん」


ライリーがシャロンの腰から手を放した。

私はシャロンの手を取って、若干私に引き寄せた。


「なに?」


シャロンはライリーの様子に首を傾げた。

ライリーは肩を竦める。


「ぃや。俺のシャロンもとうとう人手に渡ったのか、と思ってな」


シャロンは顔を赤らめた。


「もう!ヘンな事言わないで。ライリーはお兄ちゃんの幼なじみってだけでしょ。レムスが誤解したらどうしてくれるのよ?」


そして私を見る。


「誤解しないでね。ライリーは私の兄代わりだったの。一人ぼっちになった私をライリーの両親が面倒見てくれたのよ」


私は笑顔を作った。


「誤解なんてしていないよ。ライリーが君のお兄さんなら、私にとっても兄という事だ。だろう?」


私はシャロンの額にキスをして、ライリーを見た。


「よろしく、お兄さん」


ライリーは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

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