第22話


翌日。

私は昼前にシャロンの家に戻った。


「戻りました」

「おかえりなさい。夕方かと思っていたわ」

「あなたに会いたくて」


私は驚くシャロンにそう言った。

シャロンは更に目を丸くした。

だがシャロンよりも、言った私の方が驚いていた。

確かに早く帰らなければ、と急いだけれど、心の底でこんな事を思っていた?


「ぁ………ぃえ、その………」


私は慌てて言葉を考える。

それを見て、シャロンはほんの少し笑みを浮かべた。


「ぁ、その、そう思ってもらえるなんて嬉しいわ」


シャロンはそう言って、私をテーブルに促した。


「お茶でも飲む?」

「………はい」


私はシャロンの淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。


「それで、話はついたの?」

「え?」

「ほら、新しいリュートが来るまで行けませんって話をしに行ったんでしょう?」

「ぁ、えぇ。話してきました。しょうがない、と言ってくれました」

「それは良かったわね」


シャロンはそう言って、己もカップに口をつけた。

私は彼女が突っ込んで来ない事に安堵しながら、紅茶を飲んだ。




昨夜、私はハンカチの持ち主と一夜を過ごした。

昼の内にこっそり領主の家に忍び入ったのだ。


彼女は……エスターは私の来訪を喜んだ。

そして昼間から誰も来ない納屋で口付けをかわした。


「あぁ、レムス。私、ずっと待っていたのよ。ハンカチの意味を分かってたんでしょう?」

「えぇ。ですが仕事を終わらせねば来られませんでした。私がどれだけあなたを欲しかったのか、あなたは想像できないでしょうけれど」


納屋ではゆっくり出来ない、という事で、こっそり彼女の部屋に行った。

私達はエスターが夕食で戻らなければならなかった時以外、ずっと抱き合って過ごした。

誰にも秘密だから、と部屋の戸だけでなく窓にも鍵をかけ、鎧戸を下ろした。


もちろん、月の明かりが入らないようにしただけなのだが。


蝋燭の小さな灯りの中、私は思う存分エスターを味わった。

月が出た事を知らせる頭の痛みも、骨折した左腕の痛みもすぐにどうでも良くなる程、エスターの体にのめり込む。

一晩中寝る事もなく、ひたすら欲を吐き続けた。

彼女が何度も絶頂を迎え、気を失っても続けた。


怒りが欲となって吐き出された。

そんな感じ。


そして今朝。

私は彼女の部屋を抜け出した。

彼女は動かなかった。

疲れ果てたのだろう。

領主の家を出てすぐに森に入った。


泉を見付けると、裸になって水を浴びた。

欲を吐いた跡を残していたくなかった。

着ていた服もばさばさと叩いて、残り香を消した。

己の計画が上手くいった事に安堵しながら服を着て、帰路についた。


もしこのままリュートが手に入らなかったら、来月もこの手を使うとしよう。

そんな事を考えながら私はお茶を飲み干した。

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